研究課題/領域番号 |
26282137
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
馬場 耕一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座准教授 (00436172)
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研究分担者 |
橋田 徳康 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師(常勤) (30456959)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノバイオ材料 |
研究実績の概要 |
H26年度の目標である、製剤の安定性と標準化技術の確立を目指して実験を行った。熱力学的理論計算ソフトを用い、量子化学計算で得られる分子の表面電荷情報を元に、溶液中の化学ポテンシャルを算出し、物性値を予測した。ステロイド薬剤を対象に行った。特に薬剤の水への溶解度に注目し、理論と実験検証を行った。 ナノ結晶水分散製剤の作製には、新技術である凍結乾燥・ナノ結晶化技術を用いた(PCT特許申請済)。作製したナノ結晶について、粒子サイズ・結晶構造・水分散安定性および光学特性は、電子顕微鏡、粉末X線回折測定装置、光散乱測定装置により評価した。結晶構造に起因するナノ結晶の熱力学的安定性評価は、示差走査熱量計で行った。 これまでの経験側上、薬剤の水への溶解度と水に安定分散性を示すナノ結晶とには相関性があると推測していた。この度、計算で算出した油水分配係数がlogP=2.0程度の溶解度を有する疎水性のステロイド薬剤において、当該技術でナノ結晶分散液を作製したところ、結晶サイズは200nm程度のナノ結晶水分散液を得ることに成功した。続いて、ナノ結晶水分散液の水分散安定性評価を行った所、40℃で数か月間にわたり、ナノ結晶水分散液の安定性が保持されたことが判明した。すなわち、ナノ結晶の水中での結晶成長と、続く粒子凝集・沈澱現象が観測されなかった。10℃の冷蔵下では約半年にわたり粒子安定性を保持した。また、今回作製したステロイドナノ結晶について、粉末X線回折による結晶構造解析、及び、示差走査熱量解析の結果、結晶多形が存在しなかった。これらの実験データに基づき、薬剤の溶解度とナノ結晶化及びナノ結晶の水分散安定性には、当初推測のように相関性があることが理論計算と実験検証で示唆することができたと考えており、特に疎水性の高い薬剤はナノ結晶化を行いやすいと考察している。今後引き続き、薬物種を増やし、検証を行う予定。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度の研究計画に記載した内容に沿って研究を実施した。実施計画に沿う形で、一部、結果を得ることに成功しているが、同時に、より多くの薬剤を対象に検証も必要と考え、今後実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
製剤の安定性評価を引き続き行うと同時に、①熱力学的理論計算ソフトを用いた薬剤の細胞膜透過性に関するスクリーニングを実施予定。当該計算ソフトではミセルや分子膜を層状の溶媒と仮定し、ミセル・分子膜中の溶質の自由エネルギーや分配係数を予測できる。これによりミセル・分子膜中の薬剤の分布、自由エネルギーの体積分布、分配係数等が分かる。ナノ結晶化の対象となる薬剤について、細胞脂質二重膜と親和性・透過性の高い薬剤をスクリーニングする予定。②疾患モデル動物を用いた薬剤ナノ結晶点眼製剤の眼内移行性評価を行う予定。膜透過性スクリーニングを得た薬剤を対象にナノ結晶点眼製剤を作製し、検体動物に点眼し、眼内に移行した薬剤を対象に高速液体クロマトグラフィーを用いて評価する。点眼液をマウス又はラットの片眼に点眼し所定の保持時間後(例:5,30,60,120分)、麻酔をかけ眼内の眼房水を注射器で採取予定。HPLCにより薬物の濃度を測定する。薬物の眼組織内分布については、安楽死を施した検体の摘出眼球を凍結後、各組織に切片化し抽出薬物をHPLCにより測定する予定。点眼処置および解析は論文等で確立された手法に基づき行う。薬物の投与方法として、片眼に対し1日に1回から数回点眼を施す。もう片眼をコントロールとする。比較検証用として、薬剤粒子サイズが粗大となる懸濁点眼製剤をミリングや超音波破砕等により作製し利用する。これにより薬剤の粒子サイズ効果も明らかとする予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に予定していた研究費よりも予算減となったため、研究経費執行内容を見直す必要が生じた。物品費については、特に実験に係る消耗品の使用について、次年度以降に使用する経費分も見越して総合的に勘案し予算を執行した。旅費については、学会での情報収取・発表等を次年度以降に持ち越した。人件費・謝金の特に人件費については、予算減による雇用が難しくなったため、研究期間全体から総合的に判断し、本年度の雇用は見合わせた。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の研究遂行計画書に沿う形で、物品費、旅費、人件費・謝金、その他を施行予定である。
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