研究課題/領域番号 |
26282139
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
横山 昌幸 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (20220577)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 高分子合成 / ナノバイオ / 医療・福祉 / 生理学 |
研究実績の概要 |
急性脳梗塞による死亡及び後遺症によるQOL低下を抑制することは、高齢社会の日本ではその重要度が特に高い。急性脳梗塞に対して,有効である組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)治療は予後改善に有効であるが、脳出血の副作用が警戒され、発症から4.5時間の使用制限もある。また、昨年秋に血管内治療による血栓除去の有効性が国際的に実証され、t-PA治療と血管内治療を組合わせることが最新の治療法なった。この最新治療法においても病態を画像診断によって正確かつ迅速に把握し、どの治療を行う・行わないかを判断する重要性は増している。また、脳保護薬による予後改善も強く望まれている。このような背景の下、高分子キャリアーを用い、脳梗塞局所に造影剤・薬物をターゲティングすることによって、急性脳梗塞に対する新規画像診断法および新規薬物治療のProof of conceptが本研究の目的である。 平成26年度は、急性脳梗塞ラットモデルでの高分子ミセルMRI造影剤の分布解析から着手したところ、予定した以上の大きな発見と結果が得られたため、この解析のみに注力し、当初予定の2つの項目は次年度に実施することに変更した。この発見と結果は、(1)従来は判別がつかなかった中大脳動脈閉塞の完全と不完全梗塞が9.4TMRIによって判別できることの発見、(2)高分子ミセルMRI造影剤の虚血部位への分布は梗塞時間の長短にかかわらず閉塞後2時間から起こり始めることの発見、(3)高分子ミセルMRI造影剤の脳梗塞再開通部位への血液からの移行速度を初めて定量することができた、ことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急性脳梗塞ラットモデルでの高分子ミセルMRI造影剤の分布解析で、計画以上の大きな進展があった。まず、9.4Tの磁場強度のMRI装置での血管造影によって、従来は判別がつかなかった中大脳動脈閉塞の完全と不完全梗塞が判別できることが明らかとなった。そして、完全閉塞では2時間以上の閉塞の後、再開通するとすべてのラットが24時間以内に死亡するのに対し、血流が残る不完全閉塞では全例が生存する。従来はこの判別がつかず、すべての完全・不完全例が一つの脳梗塞モデルとして扱われてきた。すなわち、この判別によって従来より飛躍的に正確な急性脳梗塞病態の把握が可能となった。また、高分子ミセルMRI造影剤の虚血部位への分布は梗塞時間の長短にかかわらず閉塞後2時間から起こり始めることを新たに発見した。加えて、高分子ミセルMRI造影剤の脳梗塞再開通部位への血液からの移行速度を定量した。閉塞時間3時間の場合に,再開通後3時間で0.5%dose/gの移行量であった。固形がん以外で高分子やリポソームなどのナノサイズのキャリアーでの造影剤の移行速度が判明したのはこれが最初の例となる。 以上の急性脳梗塞ラットモデルでの高分子ミセルMRI造影剤の分布解析が当初の予定以上の大きな進展と発見があったので、平成26年度はこのMRI解析に注力したため、研究実施計画の他の項目(ミセルを形成しない高分子MRI造影剤合成と光音響測定用のCy5色素を結合した高分子ミセル合成)は次年度に廻すこととした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に当初の計画以上に大きな進展があった急性脳梗塞ラットモデルでの高分子ミセルMRI造影剤の分布解析については、閉塞時間をさらに多様に変化させてMRI観察を発展させて,急性脳梗塞の診断と治療目的に留まらず、急性虚血部位での物質移動解明という観点から、移動の時間経過、移動が顕著な部位、移動速度とキャリアーの大きさとの関連、脳梗塞病態との関連の解析を進めてゆく。このために、高分子ミセルよりも小さなサイズの(ミセル構造を形成しない)高分子MIR造影剤をポリグルタミン酸をベースにして合成し、高分子ミセルとの脳虚血部位への分布の違いを解析してゆく。一方、脳梗塞治療のための脳保護薬のFK-506と出血抑制のためのMMP-9阻害剤の高分子ミセルキャリアーへの封入を行う。また、光音響画像解析のためには、その検出のための色素Cy5を化学結合した高分子ミセル合成をすると共に、マウス静脈投与後での肝臓での分布・排出挙動解析を実行して、光音響画像解析での基本的体内動態のデータを得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は急性脳梗塞ラットモデルでの高分子ミセルMRI造影剤の分布解析に注力したため、当初予定していたポリグルタミン酸をベースにし造影剤合成および各種治療剤封入高分子ミセル合成を行わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
ポリグルタミン酸をベースにし造影剤合成および各種治療剤封入高分子ミセル合成に用いる。
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