研究課題/領域番号 |
26282144
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
阪原 晴海 浜松医科大学, 医学部, 教授 (10187031)
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研究分担者 |
芳澤 暢子 浜松医科大学, 医学部附属病院, 助教 (10402314)
上田 重人 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (20646947)
佐伯 俊昭 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50201512)
小倉 廣之 浜松医科大学, 医学部, 助教 (50402285)
久慈 一英 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (90283142)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 画像診断システム / 拡散光イメージング / 乳がん |
研究実績の概要 |
浜松医科大学と埼玉医科大学の共同研究において、時間分解分光システム(TRS-20、浜松ホトニクス)を用いて術前化学療法における腫瘍ヘモグロビン濃度の変化を計測し、早期治療効果予測能についてFDG-PET/CTと比較した。対象は原発性乳癌患者100名である。標準的化学療法のレジメンを用いて、治療前、1サイクル後(3週間後)、2サイクル後(6週間後)の3回施行し、病変部の総ヘモグロビン濃度の平均値を求めた。同時にFDG-PETを治療前および2サイクル後の2回撮像し、腫瘍への集積をstandardized uptake value (SUV)で評価した。プライマリーエンドポイントは病理学的完全奏効(pCR)とし、両者の診断予測能を比較した。解析可能であった86症例のうち、pCRに達した乳癌は16例であった。pCR群はnon-pCR群と比較して、総ヘモグロビン濃度の減少率は有意に高く、1サイクル目の減少率よりも2サイクル目の減少率のほうが高い傾向にあった。診断能についてROC curve解析でarea under the curve (AUC)を求めたところ、1サイクル後のAUCは0.69、2サイクル後のAUCは0.75であり、FDG-PETのAUC 0.9には及ばなかった。 浜松医科大学ではTRS-20と超音波診断装置のプローブを一体化した装置を用い、皮膚胸壁間距離を考慮した指標について化学療法前後での有用性を検討した。また光源検出器を平面上に複数配置した反射型拡散光トモグラフィ装置を使用し、30例の乳癌症例の測定を行った。この装置では総ヘモグロビン濃度や酸素飽和度等の2次元表示および3次元表示が可能となり、現在測定を進めるとともに、有用性の評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究責任者、研究分担者および連携研究者で随時検討会を行い、測定方法の確認やデータの解析方法の検討を行ってきた。当初予定していた100症例の登録が完了し、全例病理結果が得られた。近赤外光時間分解分光装置によるヘモグロビン濃度測定が、乳癌の化学療法早期効果評価において有効であることが示され、この成果はすでに国内外の学会で発表し、論文公表も行った。(Ueda S, et al: J Nucl Med, 57: 1183-1188, 2016)。 総ヘモグロビン量の測定はpCR診断に有効ではあったが、FDG-PETで測定したSUVmaxによる診断能に劣った。この原因を考察し、測定法の改善や新たな光学パラメータの測定を準備している。これまでの研究で乳房の後方に存在する胸壁がヘモグロビン濃度の測定に影響することを明らかにした。皮膚胸壁間距離が近いほど総ヘモグロビン濃度が高く計算されており、胸壁の筋肉内に存在するミオグロビンが近赤外光を吸収するためと考えられた。皮膚胸壁間距離が光学係数に及ぼす影響を定量的に評価し、乳がんのヘモグロビン濃度をより正確に評価する手法を提案し、論文発表した(Yoshizawa N, et al: Breast Cancer 23, 844-850, 2016)。今後、皮膚胸壁間距離を考慮に入れて総ヘモグロビン濃度を評価し、有用性を再検討する。浜松医科大学、埼玉医科大学では、この研究に関連して上記2編を含め、平成28年度に計5編の英文論文を発表した。以上の結果から「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、乳がんの化学療法前後において時間分解分光システムで測定した乳がんの総ヘモグロビン濃度の減少率が大きい治療反応群は非反応群と比較して、病理学的完全奏効率が高いことを明らかにしたが、比較対象としたFDG-PET/CT による糖取り込み能(SUVmax)による変化率よりも診断能が低いことが分かり、さらに装置の改良と新たなアプローチが必要であるとする結論に至った。 1つは総ヘモグロビン濃度測定の時期について検討する。今後、これまでの研究より抗がん剤投与後頻回にヘモグロビン濃度を測定し、薬剤の効果評価のための最適なタイミングを明らかにし、再度FDG-PETと比較したい。もう1つは総ヘモグロビン濃度以外の指標の検討である。腫瘍近傍では正常組織に比べて総ヘモグロビン濃度だけでなく水分量や脂肪量、散乱強度などにも特徴を持つことが報告されている。そこでまず従来の装置を用い、散乱強度、酸素飽和度を評価する。さらに浜松ホトニクスが近々、乳がんにおいて水分量や脂肪量を測定できる装置を完成するので、この測定値をdual energy CTやMRIで測定した値と比較し測定法自体の評価を行った後、これらのパラメータが抗がん剤の効果評価に有用かどうか、検証する。 浜松医科大学では従来の胸壁の影響を加味した総ヘモグロビン濃度の評価の研究を継続し、乳がんおよび正常乳腺の各種パラメータの正確な評価法の確立を目指す。埼玉医科大学では抗がん剤投与前後で患者の血液組織サンプルを採取し、マルチプレックスELISAシステム や免疫組織染色などを用いて腫瘍免疫、血管新生と低酸素関連マーカーに関連するタンパク質群の同定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
浜松医科大学単独の研究を達成するために症例の追加が必要であり、その研究成果を学会発表、論文発表するため、繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
患者1-2名の検査費用、謝礼、人件費、旅費に充てる。
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