研究課題/領域番号 |
26282149
|
研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
足立 善昭 金沢工業大学, 先端電子技術応用研究所, 教授 (80308585)
|
研究分担者 |
笹野 哲郎 東京医科歯科大学, その他の研究科, 准教授 (00466898)
関原 謙介 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (40326020)
川端 茂徳 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50396975)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 医用システム / 検査・診断システム / SQUID / 脊髄疾患 / 心房細動 / 脊磁計 |
研究実績の概要 |
脊心磁計は対象としている磁場信号が微小なため、環境からの磁場雑音の対策が測定データの品質を大きく左右する。平成27年度は、データ収録系からSQUID電子回路までの電磁シールドを強化し、耐環境雑音性能のさらなる向上を図った。加えて、前年度に提案し脊心磁計システムに実装した磁場雑音低減法(DOLPHIN)の実証実験を引き続き行った。従来の磁気シールドルーム、差分型ピックアップコイルと併用して、DOLPHINを適用することで、1~1.5μTの磁場変動がある都市部の磁場環境でもハイパスフィルタによる波形の歪みを抑制して、心臓磁場信号の検出が可能になった。これにより、脊心磁計の強みであるベクトル磁場測定を生かして、P波やP波とQRS波間の微細構造の仔細な観察が可能となり、心機能についての新たな知見が得られつつある。 脊心磁計は超電導センサを極低温に保つために液体ヘリウムを消費し、その高いランニングコストが脊心磁計を用いた研究の大きな妨げとなりうる。これを解決するために、蒸発したヘリウムを再凝縮して液体ヘリウムとしてリサイクルするクローズドサイクルヘリウム再凝縮を平成27年度に導入した。クローズドサイクルヘリウム再凝縮は冷凍機を脊心磁計の直近で稼動させるため、冷凍機からのノイズが測定に影響を与えるが、適切な電気的絶縁とバッファタンクによるヘリウムガスの振動対策により、これを抑制できた。これにより、少なくとも4か月半の間、液体ヘリウムの追加補給なしで連続運転させることが可能となった。 ヘリウム再凝縮によりランニングコストの問題解決に目処が立ったので、民間企業が脊心磁計の事業化に興味を示している。平成27年度は民間企業の協力も得つつ、これまで東京医科歯科大学の医師と開発を進めてきたユーザービリティを向上させたソフトウェアを含む新しい脊心磁計システムの設計、試作に改めて着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は平成26年度に引き続き、脊心磁計のロバスト性とユーザービリティ向上のための研究開発を推進した。前年度末に提案し、脊心磁計に実装したDOLPHIN(Direct Open-Loop in-Phase component Input)は、装置の設置場所である東京医科歯科大学における心磁信号測定の障害となっていた鉄道からの低周波雑音を効果的に低減し、これによりハイパスフィルタを適用しなくても高いダイナミックレンジを確保しながら、心磁信号のP波やP波とQRS波間の波形の微細構造の仔細な観察が可能になった。また、X線撮像に工夫を加え、心臓や脊髄へのセンサアレイの相対位置をより簡単に的確に合わせる手法を確立できた。これにより、心磁測定では疾患の発症リスク予測につながるものの、従来再現性が得られなかった新たな信号成分についての知見が得られた。 本研究と並行して別研究プロジェクトで進めていたクローズドサイクルヘリウム再凝縮に目処が立ち、その成果を脊心磁計に適用することにより、本研究の液体ヘリウムによるランニングコストの問題が解決できた。ランニングコストの問題は今後、様々な大学病院や研究機関に脊心磁計を設置し、発症リスク予測研究のために運用していく上で大きな障害となることが予想されたため、この問題の解決は研究にとって大きな転換点となった。クローズドサイクルヘリウム再凝縮の導入により、ランニングコストの問題解決のみならず、ヘリウムの追加注液作業などによる装置が使えない期間を大幅に短縮することができたため、研究活動を加速することができた。 これまで液体ヘリウムの高コストが、脊心磁計の事業化の障害となっていたが、クローズドサイクルヘリウム再凝縮導入により低ランニングコスト化に目処が立ったため、その相乗効果として、脊心磁計の製品化に民間企業が興味を示すようになり、協力を得られるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は本研究の最終年度である。これまでに進めてきたロバスト性の向上、ユーザービリティの向上のための要素開発を取りまとめ、脊心磁計の製品化に興味を示す民間企業の協力も得ながら、新しい脊心磁計の設計、試作を進める。これまでの検討で、患者を対象とした検査の検査手順が確立されてきた。また、低周波雑音除去や検査の際のアーチファクトを除去するアルゴリズムや、他のモダリティからのデータ(形態情報)と脊心磁計の磁場信号の情報を整合させ、電流源再構成する手法も整備されてきた。それらを統合し、検査をスムーズに進められる操作ソフトウェアを開発し、脊心磁計を用いた疾患早期診断の研究を加速する。 今まで雑音や被験者ごとの適切な測定位置が確保されていなかったことにより、うまく検出することが難しかった心磁信号や脊髄磁場信号が、装置や測定手順の改良により、新たに再現性よく検出できるようになってきた。最終年度は被験者をさらに増やして、脊心磁計で得られた新しい信号成分の妥当性検証を引き続き進めるとともに、脊心磁計を適用した新たな疾患診断法の確立を目指す。 実際に脊心磁計を複数の大学・試験研究機関に配備、運用して疾患の発症リスク予測研究に用いるためには、少なくとも数台~10数台は装置を量産する必要がある。本研究の最終年度の総括として、脊心磁計の製品化に興味を持つ民間企業と協力して、本研究で培ったロバスト性の向上やユーザービリティの向上のための設計やノウハウを盛り込みながら、量産化を標榜した製品に近い脊心磁計試作機の設計、開発の指針を得る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
クローズドサイクルヘリウム再凝縮の導入成功により、液体ヘリウムの消費量が大幅に減ったことと、クローズドサイクルヘリウム再凝縮からの雑音対策として電気的絶縁と振動対策が功を奏し、当初検討していたモバイルリファレンスを用いたノイズ低減法の導入が不要となったため、平成27年度使用額に余裕ができ、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は最終年度であるため、研究全体の総括を行い、対外発表をより充実させるための費用として充当する予定である。
|