研究課題/領域番号 |
26282151
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山本 玲子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 上席研究員 (20343882)
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研究分担者 |
清水 良央 東北大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (30302152)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体材料 / 医療・福祉 / レギュラトリーサイエンス / 動物実験代替法 / 特殊環境 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
Mg合金は、生体吸収性金属材料としての医療応用が広く期待されている。その実用化に際しては、生物学的安全性などのリスクを適切に評価する必要がある。しかしながら、従来の医用材料のリスク評価法(例えばISO10993)は既存の生分解性高分子・セラミックス材料や高耐食性金属材料を対象にしており、Mg合金への適用は不適切なため、新たな評価法の確立が求められる。本研究では、Mg合金の生物学的安全性リスク評価手法の確立を目指し分解特性評価を実施、リスク評価のための基本的な考え方を明示する。 本年度は人工血漿および血清添加細胞培養液を用い、試料表面積に対する溶液量を変化させ、7日間の浸漬試験を実施した。その結果、いずれの溶液についても浸漬期間の増加に伴い総溶出量が増加する傾向が認められたが、表面積当たりの溶液量が1mL/cm2以下の場合、表面積当たりの溶液量が大きい場合よりも溶出量の増加が大きかった。また、浸漬時間が長くなると(3日よりも7日の方が)表面積当たりの溶液量が小さい場合の影響が強く現れることも判明した。 ISO10993では、抽出液中の溶出イオン濃度を高くするために少ない抽出液量を指定しているが、生体内では毛細血管網が備わっているため、体液・組織液の循環量は大きく、むしろ表面積当たりの溶液量が大きい場合と同様の環境であると考えられる。In vivo埋植試験の結果から、埋入組織により分解量は異なることが判明、しかし、埋入組織の血流量と分解量の間に直接的な相関性は認められなかった。 電気化学測定法では、マグネシウム合金の分解に及ぼす体内環境の影響を検証している。5%炭酸ガスおよび5%酸素条件下で細胞培養液中電気化学測定を実施したところ、低酸素条件下では20%酸素条件よりも若干分解速度が増加すること、しかし、5%炭酸ガスが分解速度に及ぼす影響よりも小さいことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の医用材料のリスク評価法であるISO10993における生物学的安全性試験実施のための抽出液作製条件を参考に、人工血漿および血清添加細胞培養液を用いてin vitro浸漬試験を実施し、試料単位表面積当たりの抽出液の量が、合金の分解挙動に大きく影響をすること、また浸漬時間の増加に伴い、溶液量の影響がより大きく現れることを確認した。このような基礎的なデータの報告はこれまでなく、現存のガイドラインの問題点を明らかにした点は重要である。 生体内模擬環境(血清添加細胞培養液および5%炭酸ガス+5%酸素雰囲気下)におけるMg合金の電気化学測定によりMg合金の分解速度に炭酸ガス緩衝系を構成する炭酸ガス濃度が大きく影響すること、酸素濃度低下の影響は相対的に小さいことを明らかにした。従来の医療用金属材料の電気化学測定は窒素雰囲気下、生理食塩水や1%乳酸中での実施など、生体内とはかけ離れた環境で実施されてきた。Mg合金について、炭酸ガス・酸素雰囲気まで制御した測定例はなく、貴重なデータである。いずれも、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
人工血漿あるいは細胞培養液を用い、撹拌条件下で浸漬試験を実施し、溶液の撹拌が分解速度に及ぼす影響を確認する。得られた結果から、溶液の撹拌により組織中における血流量の違いを模擬可能かどうか、検証する。これまでの研究から、細胞培養液中のin vitro浸漬試験結果と軟組織中への埋植試験結果にはある程度の相関が認められているが、分解量の推定を実施するためにはin vitro試験条件とin vivoの結果の間に科学的・合理的な論拠が必要である。In vitroにおける試料表面積に対する溶液量設定など、両者を結び付けるための考え方を提案する。 さらに、電気化学測定により、生体組織、すなわち細胞がMg合金の分解特性に及ぼす影響について、検証する。既に、in vitro細胞培養試験により、細胞存在下の方が若干溶出Mg2+量が多いことを確認しているが、電気化学測定においてさらに詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
特注により電気化学測定用セルを加工・作製しているが、改善する必要が生じた。設計変更を検討する時間が必要であったため、翌年度の実施とした(260千円)。 電気化学測定用セルの仕様変更に伴い、一部の実験を翌年に延期した。そのための消耗品費(100千円)および人件費(140千円)が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
電気化学測定用セルを設計変更の検討を終了し、特注により加工・作製する。それに伴い、生体内模擬・細胞培養環境下における電気化学測定を実施する。そのための消耗品費および研究補助員の人件費として使用する。
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