研究課題/領域番号 |
26282176
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
村越 真 静岡大学, 教育学部, 教授 (30210032)
|
研究分担者 |
山本 正嘉 鹿屋体育大学, その他部局等, 教授 (60175669)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ヒヤリハット / KYT図版 / 山岳遭難統計 / 山岳ガイド / リスク特定 |
研究実績の概要 |
1.2012~2013年の山岳遭難統計の元資料の分析より、山岳遭難の各態様の傾向とそれに関連する要因を洗い出すことができた。この結果は、「登山白書2016」(山と渓谷社)に報告した他、山岳雑誌記事や講演により広く社会に提供した。 2.KYT図版による登山者のリスク特定能力の検討を行った。H27年までに取得したデータに加え、リスク特定時の発話プロトコルも収集し、分析に活用した。その結果、登山経験によってリスク特定能力が向上しない一方で、加齢によってリスク特定能力が低下する可能性が示唆された。また、発話プロトコルの分析から、潜在的なリスク特定にあたり、環境に関連して発生するトラブルについての構造的知識が援用されている可能性が示唆された。 3.登山時のヒヤリハット調査については、記述の質的分析を実施し、ヒヤリハットの発生に影響する要因を、ヒヤリハットの内容ごとに洗い出した。 4.遭難統計の分析より明らかになった、全年代において発生している道迷い遭難への対応のためのナヴィゲーション教育カリキュラムの検討を、27年度のイギリス視察の結果を踏まえ、(公社)日本オリエンテーリング協会の協力を得て進めた。 5.自然環境におけるリスク特定能力の把握とその背後にある知識や推論の有り様を明らかにするため、南極観測隊員、とりわけFAを対象としたヒアリングと質問紙調査、山岳ガイドを対象としたフィールド調査を実施した。前者では、環境に関する知識がリスク特定に影響していることを明らかにするとともに、個々のリスクへの対応能力とリスク全般への態度の乖離を明らかした。その成果は「南極資料」(国立極地研究所)に投稿した。後者では、実際に登山道を歩きながらのリスク特定課題の実施がリスク特定能力を明らかにする上で有効な手法であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画で予定したデータはほぼ収集することができたが、山岳遭難統計を利用して、性、年代、山域、時刻といった遭難に関連すると思われる要因に疫学的な分析、ヒヤリハットの記述に基づく臨床的な要因の把握については、論文としてまとめるに至っていないため。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間の延長を行ったので、現在分析中のデータについてまとめ、延長期間内に論文として発表するめどが立っている。これらの結果については、学術的な論文として公表するだけでなく、一般向けの報告書としてまとめ、山岳遭難を所轄する警察署を初めとした山岳関係団体等に送付し、広く社会的な活用を推進する。また山岳遭難防止のためのナヴィゲーションのカリキュラムについては、30年度より実施の見通しで、進捗している。 高齢登山者の事故が指摘される中、本研究課題でも加齢によるリスク特定能力の低下が示唆される結果が得られた。認知的スキルという点から登山者の課題や加齢以外の関連要因を明らかにすると同時に、本研究課題の一環としてスタートすることができたスキルの背後にあると考えられる知識や推論の構造についての実証的なデータ収集を今後進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
山岳遭難統計を利用した遭難要因の疫学的な分析、ヒヤリハットの記述に基づく臨床的な要因の把握については、論文としてまとめるに至っていないため、報告書作成を次年度に行うこととしたため、その分の経費を次年度使用とした。
|
次年度使用額の使用計画 |
データ処理謝金および報告書作成経費として使用予定。
|