研究課題/領域番号 |
26282177
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
矢内 利政 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (50387619)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 野球 / 打撃 / インパクト / 振動特性 |
研究実績の概要 |
平成27年度には、グリップ位置、インパクト位置、打球速度の力学的関係を正確にモデル化するため、2つの研究を実施した。第一は、様々な野球選手によるバント試技を分析することにより、バンドにおけるインパクト特性と打球速度との関係を定量化する実測研究であった。野球選手31名に同一のバットを使用させてバントを行わせた540試技分のデータを分析し、インパクト位置、グリップ位置、打球速度の関係を定量的に解析した。その結果、ⅰ.投球速度と打球速度の間には関連がないこと、ⅱ.バットの短軸方向のインパクト位置が打球速度の変動の70%を説明できること、ⅲ.バットの正面でボールをインパクトした場合は、インパクト位置がバットヘッドに近づくほど打球速度が小さくなること、そして、ⅳ.トップハンドをヘッド寄り、ボトムハンドをグリップエンド寄りに位置してバットを把持した試技ほど打球速度が小さくなることが明らかになった。 もう一つは、バントからフルスイングに至るまでのまで連続的なスイング速度、幅広いインパクト位置における数値シミュレーション分析を可能するための解析モデルを構築する研究であった。バント及びバッティングの実測データと共振実験から得られたバットの振動特性データを基に有限要素モデルを構築し、これを用いた衝突実験の妥当性を検証した。その上で、インパクト時のボールとバットの挙動を分析した。その結果、ⅰ.打球速度を最大化するインパクト位置は,インパクト直前のバットの重心周りの角運動量と運動量の影響を受けること、ⅱ.バントなどバットのスイング角速度が小さいバッティングを行う場合は、バットの芯よりもバットエンド側にインパクトすると打球速度が最大となること、ⅲ.バットの重心周りの角運動量が増大すると、バットの芯に近い位置でインパクトすると打球速度は高くなることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度のメインゴールは数値シミュレーション分析を行うために必要な解析モデルを構築することであった。本年度には、モデルを構築するために必要な実測データを収集し、解析モデルを構築することができた。このモデルの妥当性を検証することができたうえ、これを用いた打撃分析を進めることもできた。以上より、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には、『ボールインパクト位置と打球速度との関係はどのように規定されるのか?』の回答を得ること、及び、バットの芯でのボールインパクトの特性とそのメカニズムを紐解くための原理を追求すること、という最終ゴールを目指した研究を予定通りの手順で進める。平成26年度に構築したインパクト解析モデルを用いて、さらなる数値シミュレーション分析を行うことにより、通常バッティング、バント及びバスターにおいて打球速度を最大化・最小化させるインパクト位置およびインパクト条件を特定する。また、ボールインパクト時の力の伝達やバット・ボールのひずみの経時変化を系統的に分析することにより、バットの『芯』でのボールインパクトと打球特性との関連を明らかにすべく『力学的からくり』を検討する。これら数値シミュレーション分析による研究成果と実測実験による研究成果をすり合わせることにより、両研究成果の妥当性を検証する。 数値シミュレーションによって算出された出力値を分析する際の着目点は、①打者がバットに加えた力系によるバットの振動特性の変化、②グリップ位置の変化に伴うバットの振動特性の変化、③インパクト直前にバットが有する運動量・角運動量の大きさと向き、とする。そして、バットの『芯』でボールをインパクトした際の力の伝達やバット・ボールのひずみの経時変化をつぶさに分析し、バットの『芯』を外れた位置でインパクトした際のデータと比較することにより、『バットの芯付近でボールをインパクトすることが、通常バッティングにおいては打球速度を最大化するのはなぜか』という疑問への回答を力学原理に基づいて導き出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は数値シミュレーションに特化した解析作業が多く、適切な研究能力を有する研究補助者を雇用することが困難であったことが、申請した研究費を支出しきれなかった主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度の研究を予定通りに進め、3年間の研究成果を取りまとめるために研究助手を雇用する。最終年度に雇用する研究助手は、スポーツ工学およびバイオメカニクスの専門知識を有することが必須であるが、すでに人材を既に確保していることから、この人件費として繰り越し分を使用する予定である。
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