研究課題
骨格筋において筋細胞膜リン脂質中の脂肪酸組成がインスリン感受性に影響を及ぼすことが報告されており、骨格筋細胞膜のリン脂質分子種と骨格筋機能維持には何らかの関連性があると考えられる。一方、骨格筋は遅筋と速筋に大別され、このうち持久的運動トレーニングは骨格筋の遅筋化を促進する。この適応反応にリン脂質分子が貢献していると想定されるが、どのような機序で変化が生じるのかは不明である。研究実施者らはこれまでに、転写共役因子PGC-1αを骨格筋特異的に過剰発現させた「筋PGC-1αマウス」を作製し、骨格筋の遅筋化と持久力の向上を認めている。本研究課題では、このようなモデルマウスを手がかりに骨格筋機能向上の分子レベルでの科学的エビデンスを獲得するとともにマーカーを特定することを主目的の一つとしており、モデルマウス骨格筋に含まれるリン脂質分子種を明らかにし、どのリン脂質分子種が骨格筋機能向上のマーカーとなるかを探索する必要がある。そこで今年度は、骨格筋の脂質組成を赤筋と白筋別に網羅的に解析する測定系を確立し、予備的に筋PGC-1αマウスにおける脂質分子種の変化について検討した。その結果、クラスタ分析により、白筋と赤筋で含まれる分子種が大きく異なること、PGC-1αの過剰発現は骨格筋脂質組成を変化させるが、白筋を赤筋と同じような脂質組成までには変化させないことが判明した。また、主成分分析の結果、成分1の変化から白筋と赤筋ではトリアシルグリセロール含有量が大きくことなること、成分2の変化からPGC-1αは骨格筋の脂質分子種、特にグリセロリン脂質の分子種に変化を引き起こすことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
骨格筋は遅筋と速筋に大別され、持久的運動トレーニングは骨格筋の遅筋化を促進する。最近、骨格筋の特性変化に伴い、骨格筋中の脂質分子種の変化が生じることが明らかにされつつあるが、その機序や生理的意義については不明である。本研究では、EDLとsoleusで含まれる分子種が大きく異なること、PGC-1αの過剰発現は骨格筋脂質組成を変化させるが、EDLをsoleusと同じような脂質組成までには変化させないこと、また、主成分分析の結果、成分1の変化からEDLとsoleusではトリアシルグリセロール含有量が大きくことなること、成分2の変化からPGC-1αは骨格筋の脂質分子種、特にグリセロリン脂質の分子種に変化を引き起こすことを初めて明らかにした。筋線維変化のエピジェネティクス制御に関する研究は、実験手技の開発に遅れが生じている。
得られた結果をもとに、筋線維変化に伴って変化する脂質分子種を同定し、様々な生理条件での変化を検討する。また、Type I、IIa、IIbの各線維に必要と思われる遺伝子周辺のクロマチン構造変化と転写複合体の結合様式を、アセチル化ヒストンやRNA polymerase IIを認識する抗体を用いたクロマチン免疫沈降法により調べ、持久系トレーニングによる遅筋特性獲得や、Type IとType II線維の特性決定におけるエピジェネティック制御機序を明らかにしていく。
骨格筋のメタボロミクス解析を中心に実施し、エピジェネティクス解析を後回しにしたため。
エピジェネティクス解析を実施するための試薬購入費にあてる。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件)
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