研究課題
老化は低レベルの全身性の慢性炎症であるという新しいコンセプトが提唱され、炎症性老化(inflammaging)とよばれている。加齢性疾患である2型糖尿病における全身性慢性炎症の亢進には高血糖が深く関わっていると考えられている。実際に、マクロファージの抗炎症性サイトカインIL-10の産生能は高血糖により減弱する。一方、時計遺伝子として知られる核内受容体Rev-erbαはIL-10の転写を抑制すると報告されている。そこで、高血糖によるマクロファージのIL-10発現調節機構におけるRev-erbαの役割を検討した。マクロファージ細胞株RAW264.7を高グルコース存在下で培養してグルコース負荷の影響を検討した。Rev-erbαのタンパク質発現量は高グルコース負荷により明らかに増加したが、mRNA発現量は変化しなかった。そのため、この影響は翻訳後修飾によると推定された。実際に、プロテアソーム活性は高グルコース培養により有意に低下していた。一方、タンパク質のO-結合型N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)レベルは高グルコース負荷により明らかに増加した。O-GlcNAcの付加を触媒する酵素OGTをノックダウンした結果、高グルコース負荷によるプロテアソーム活性の低下とRev-erbαのタンパク質発現量の増加は消失した。したがって、高グルコース負荷によるRev-erbαのタンパク質発現増加にはO-GlcNAc修飾の亢進によるプロテアソーム活性の低下が関与していると推定される。さらに、リポ多糖刺激によるIL-10の分泌誘導は高グルコース培養により減弱したが、この影響はRev-erbαをノックダウンすることにより軽減された。以上の結果より、高血糖による炎症反応亢進機構には、マクロファージのRev-erbα発現増加によるIL-10発現抑制が関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、加齢に伴う全身性の炎症性変化における時計遺伝子の役割を明らかにし、糖尿病などの慢性炎症性疾患予防に繋げることを目的としている。特に今年度は、2型糖尿病患者の全身性慢性炎症の亢進に深く関わっている高血糖によるマクロファージのIL-10発現調節機構における時計遺伝子Rev-erbαの役割を検討した。その結果、高血糖による炎症反応亢進機構には、マクロファージのRev-erbα発現増加によるIL-10発現抑制が関与しているという新たなメカニズムを見出した。この結果は、本研究目的に大きく寄与するものであり、また、今後フォーカスを当てるべき重要なポイントを示していて、次年度の研究をスムーズに進めることを可能にするものである。従って実験はおおむね順調に進展していると考える。
慢性疾患の炎症状態に対する運動効果を解析するため、M1マクロファージが優位なC57BL/6Jマウス、M2マクロファージが優位なBALB/cマウス、PRRノックアウトマウスを用いて解析する。最近、TNFαやIL-6といった炎症性サイトカインを脂肪細胞や骨格筋細胞が産生することが明らかにされた。現在のところ、肥満などの慢性炎症反応の引き金となる細胞が、それらの細胞なのか、あるいはマクロファージなのかは必ずしも明らかになっていない。そこで、運動の抗炎症効果におけるマクロファージの役割を明らかにするため、マクロファージ欠損マウス(FVB/NJCsfop/op)と対照マウス(FVB/NJ)を用いる。さらに、老化における時計遺伝子の関与を明らかにするため時計遺伝子ノックアウトマウス、20~24ヶ月齢の老化マウス、慢性炎症性疾患モデルとして高脂肪食マウス、遺伝的肥満(ob/ob、db/db)マウス、KK-Ay 2 型糖尿病マウスを用いる。これらのマウスは、概日リズムの変調の実験以外では、24時間の明暗サイクル(12h明/暗)で飼育する。マウスを非運動群と運動群に分け、運動群には8週間の飼育期間中にトレッドミル走行を負荷する(運動群)。同様の時間トレッドミル上で運動負荷を与えないものを非運動群とする。トレッドミル走の侵襲が強いと判断された場合は、回転かご付きケージによる自発性運動による運動効果を検証する。運動が炎症性老化や概日リズムの乱れを修復することでマクロファージ機能に影響するのか、あるいは炎症性老化や概日リズムの乱れを修飾することなく、運動の直接的効果がマクロファージ機能に影響するのかを解析する。加えて、抽出したmRNAを用いてマイクロアレイ解析を行い、概日リズムの乱れの影響、または運動効果が確認された遺伝子についてはその発現調節機構を詳細に検討する。
高血糖が慢性炎症にどのように関与するかを検討し、マクロファージの時計遺伝子Rev-erbαの関与が示唆されたので、さらに詳細な検討を行った。その結果、高血糖による炎症反応亢進機構には、マクロファージのRev-erbα発現増加によるIL-10発現抑制が関与しているという新たなメカニズムを発見に繋がった。これらのin vitroの実験を優先し、種々のマウスを用いたin vivoの実験を次年度に行うこととしたため、動物実験に予定していた費用を次年度に使用することとした。
炎症反応、マクロファージの関与、時計遺伝子の役割などに対する運動効果を解析するため、M1マクロファージが優位なC57BL/6Jマウス、M2マクロファージが優位なBALB/cマウス、PRRノックアウトマウス、マクロファージ欠損マウス(FVB/NJCsfop/op)と対照マウス(FVB/NJ)、時計遺伝子ノックアウトマウス、20~24ヶ月齢の老化マウス、高脂肪食マウス、遺伝的肥満(ob/ob、db/db)マウス、KK-Ay 2 型糖尿病マウスを購入する。マウスを非運動群と運動群に分け、運動群には8週間の飼育期間中にトレッドミル走行を負荷する。トレッドミル走の侵襲が強いと判断された場合は、回転かご付きケージによる自発性運動による運動効果を検証する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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