ケトン体の睡眠調節の役割について、末梢・中枢、両方向から探索を勧めている。当研究室において作製中であった、神経細胞のHMGCS2 (ケトン体合成酵素)やSCOT(ケトン体分解酵素)のtetシステムによる発現調節マウスがいくつかの系で確立し、そのうち、脳神経に特異的にSCOT2が過剰発現しているマウス系において、睡眠記録および行動解析を実施した。現在、解析中である。一方、あらたにsiRNAオリゴを用いたHMGCS2発現抑制実験を行った。この場合、脳室内投与による中枢発現抑制と、門脈投与による肝臓内発現抑制とを行った。その結果、中枢でのHMGCS2発現抑制は、ベースラインの睡眠に影響を与えなかったが、ハンドリングによる断眠に対して、回復期の最初3時間におけるデルタ波のリバウンドを抑制した。しかし、30分のトレッドミル運動負荷では、逆に、回復期の4時間目以降にデルタ波のリバウンド反応が増強された。一方、門脈内siRNAオリゴ投与による影響については、現在解析中である。siRNAオリゴ投与の実験から、中枢のHMGCS2は、ハンドリングによる断眠後のデルタ波リバウンド、特にその急性期(3時間以内)に関与している可能性が示唆される。また、トレッドミルの運動が睡眠を深くすることは、これまで本研究によって明らかになっているが、その現象には、中枢HMGCS2は関与しないことも示唆される。運動による血中ケトン体増加および睡眠深度の増大は、肝臓のHMGCS2によるものかもしれない。
|