研究課題
申請者は、2007年に水素には新しい概念の抗酸化作用があることをはじめて示し、将来の医療に適用可能であることを提唱した。その後、抗酸化作用だけでなく、炎症抑制効果、アレルギー抑制効果、細胞死抑制効果、エネルギー代謝促進効果など多様な効果を示す事が明らかにされた。これらの効果は、水素が様々な遺伝子発現を制御することによって生じることが明らかにされたが、どのようにして遺伝子発現を制御するのかは謎として残されたままであった。生体膜に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種のリン脂質(PAPC:1-パルミトイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン) がフリーラジカル連鎖反応で酸化されると遺伝子発現制御を行う様々なメディエーターを生じることが明らかにされていたので、本研究ではPAPCに注目した。精製されたPAPCをフリーラジカル連鎖反応によって化学的に酸化するときに、1.3%以上の水素を存在させるだけで、酸化PAPCによる培養細胞への細胞内情報伝達を担うカルシウムの流入が低下した。さらに、網羅的遺伝子発現解析によって、水素存在下で酸化されたPAPCは様々な遺伝子発現を変化させることを明らかにした。とくに、NFATと呼ばれる転写因子の活性を低下させ、様々な遺伝子発現を制御しうることを明らかにした。さらに、培養細胞でフリーラジカル連鎖反応を人為的に生じさせる時に、水素濃度が1.3%以上存在する場合には、カルシウムの流入の低下とそれに伴うNFATの活性の低下が認められた。これは、上記化学反応によるフリーラジカル連鎖反応によるPAPCの改変による結果と一致しているので、細胞内でも上記の反応が生じていることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、英国のNature出版社のOpen Access Online科学雑誌「Scientific Reports 6, Article number 18971 2016年1月7日」に掲載された。
水素は、不活性であるが故に、酸化ストレスがないときは効果を発揮しないが、フリーラジカル連鎖反応が亢進しているときのみに、効果を発揮することが示唆された。このメカニズムの解明によって、従来説明できなかった水素の効果の多くが説明できるようになった。本研究により、分子状水素の多彩な機能を発揮するメカニズムが解明されたので、分子状水素の医療への適用を促進することが期待される。また、今回の発見は、新しい概念を提出するものであり、分子状水素の機能を発揮する詳細なメカニズムの研究を推進する手がかりになることが期待される。本研究では、水素による炎症性サイトカインの発現の低下を説明できるが、脂質代謝関連因子のように水素のよって遺伝子発現が上昇することは説明できないので、水素により遺伝子発現の上昇のメカニズムを解明する事が必要である。
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