研究課題/領域番号 |
26282201
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
金 憲経 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (20282345)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Sarcopenic obesity / RCT介入 / 地域在住高齢者 / 追跡調査 / Crossover指導 |
研究実績の概要 |
加齢とともに変化する筋肉量の減少と脂肪量の上昇はからだの諸機能に様々な影響を及ぼす. 今日までは, 骨格筋量の減少に伴う筋力や歩行機能の低下を指すsarcopeniaあるいは脂肪の過剰蓄積である肥満, それぞれ単独徴候に焦点を当てた研究は数多く報告されている. 最近, 骨格筋量の減少に脂肪の過剰蓄積が重なるsarcopenic obesity (以下SO)に関心が高まり, SOはsarcopenia単独あるいは肥満単独より歩行障害, 転倒率, 膝OA危険性, 死亡率等々の上昇を多くの研究で指摘している. これらの背景を踏まえて, H26年度には地域在住高齢者を対象に大規模調査を実施した. 得たデータを用いて, 日本人用のSO選定基準を作成した. その後, SOの有症状況, biomarker, 関連要因を把握することが平成26年度の目的であった. H24年度地域在住高齢者575人, H25年度地域在住高齢者638人, 合計1,213人を対象に骨格筋量, 体脂肪率, 脂肪量, biomarker, 膝痛, 歩行障害, 転倒・骨折, 尿失禁, 認知機能などを把握するためのSO総合健診を行った. 調査項目は, 聞き取り調査, 体力測定, 血液分析である. 聞き取り調査は, 健康度自己評価, 痛み, 過去1年間の転倒有無, 転倒によるケガ, 転倒恐怖感, ADL, 運動習慣等々. 体力測定は, 握力, 膝伸展力, 歩行速度であり, 歩容はWalkwayより分析した. SO選定基準は, DXA法による体脂肪率32.0%以上, 骨格筋量指数5.46kg/m2以下, 握力17.0kg未満, 通常歩行速度1.0m/sec未満と設定した. 該当者307人をSO高齢者と操作的に定義し, SOと認定された307人と残り906人を比較し, 地域在住SO高齢者の特性を詳細に分析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)SO高齢者の特徴 SOと認定された307人の年齢80.0±4.6歳, 体脂肪率34.6±2.4%であった. SO高齢者の握力, 膝伸展力, HDLコレステロール値は低かったが, 中性脂肪は高かった. MMSE点数の差は認められなかった. 一方, 既往歴では高血圧, 高脂血症, 膝痛, 腰痛, 変形性膝関節症, 転倒率, 尿失禁の有症率は有意に高かった. 2)Dynapenic obesity(DO)高齢者の特徴 DXA法より求めた体脂肪率が32.0%以上で通常歩行速度1.0m/sec未満あるいは握力17.0kg未満をDOと分類し(14.9%), 肥満単独(16.5%), 正常群(68.6%)と比較した. 体脂肪率32.0%以上31.3%, 歩行速度1.0m/sec未満25.9%, 握力17.0kg未満29.2%であった. DO群と肥満群は正常群よりHDLコレステロールは低かったが, 中性脂肪は高かった. DO群はIADLの障害, 過去1年間の転倒, 変形性膝関節症は肥満群や正常群に比べて有意に高かった. 握力と通常歩行速度は有意に低かったが, MMSE点数の差はなかった. DO群は肥満単独群や正常群に比べて, ケーデンスの有意な減少, ストライドの短縮, 歩幅と歩隔の拡張, 歩行角度の拡大との特徴が見られた. 正常群を基準とした場合の転倒危険性は, 肥満単独群でOR=0.886 (95%CI=0.463-1.694), DO群でOR=2.320 (95%CI=1.347-3.997)と高かった. 結果の一部は, American Geriatrics Society Annual Scientific Meeting (Orlando, USA, 2014.5.15-17)及び日本老年医学会 (福岡, 2014.6.12-14)で報告した.
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今後の研究の推進方策 |
1. RCT介入研究 1)概要:地域在住SO高齢者307の骨格筋量の上昇, 体脂肪減少, 内臓脂肪減少, biomarkerの改善, 膝痛, 歩行障害, 転倒, 認知機能, 尿失禁の改善を目的とした包括的介入プログラムを開発し, その短期効果を検証するために, 3ヶ月間のRCT介入研究を平成27年度に実施する計画である. 2)包括的介入プログラムの開発戦略:多くの研究者がSO対策案を提示し, Bentonら(2011)は運動とダイエット両面の支援の必要性を, Hoら(2012)は有酸素運動+筋力アップ運動が脂肪減少により効果的であることを, Li & Heber(2012)は定期的な筋力アップ運動とタンパク質補充の必要性を強調している. これらの背景を踏まえて, 本研究では筋力アップ運動, 有酸素運動, ロイシン高配合の必須アミノ酸, 茶カテキン補充を軸にプログラムを開発する. 3)指導計画 (1) 介入準備①6月:潜在的対象者である307人の中から介入対象者の募集, ②7月下旬:説明会の開催, ③8月上旬:介入参加者最終確認, ④8月下旬:事前調査(聞き取り調査, 体力測定, 採血, 筋肉量(DXA法), ⑤事前調査後, RCTによる4群分け(第1群: 運動+栄養, 第2群: 運動, 第3群: 栄養, 第4群: 教育). (2) 介入の概要: ①介入期間:3ヶ月(9月~11月), ②介入頻度:週2回, ③介入時間:1回当たり60分. 2. 追跡調査 (1) 概要:3ヶ月間の介入終了4ヶ月後に追跡調査・測定を行い, 包括的介入プログラムの長期効果を検証する. (2)調査対象者:群に割り付けられた全数→会場調査が出来ない者については, 訪問調査あるいは電話調査を行い, intention to treat分析ができるように全数データ収集. (3)調査項目:事前調査項目と同様.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度には, 在住高齢者1,213人を対象に行った包括的健診データを用いて, DXA法による体脂肪率32.0%以上, 骨格筋量指数5.46kg/m2以下, 握力17.0kg未満, 通常歩行速度1.0m/sec未満のSO選定基準を適用し, 該当者307人を選定した. SO高齢者の特徴を分析したところ, 中性脂肪は高く, HDLコレステロールは低かった. また, 高脂血症, 高血圧, 膝痛, 変形性膝関節症, 転倒率の有症率は高く, 体力低下の特徴を学会で報告した. 平成27年度には, SO改善プログラムの効果を検証するために, 307人の中から介入参加者を選定し, SO高齢者の身体組成, 体力, 血液成分, 活動量, 姿勢の改善を意図し, 運動, 栄養補充のRCT介入研究を実施する予定である. 介入前後におけるDXA計測, 血液分析, 有酸素運動機器購入経費として使用するためである.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度には, 介入参加SO高齢者をRCTにより「運動+栄養群」, 「運動群」, 「栄養群」, 「教育群」の4群に分けて3ヶ月間の介入プログラムを提供し, 身体組成, 体力, 血液成分, 活動量, 姿勢, 口腔機能の改善効果を総合的に検証する. 運動介入は, 筋力アップ運動と有酸素運動を中心に指導する. 有酸素運動指導は自転車エルゴメーターを使用するのでエアロバイク5台の新規購入が必要である. 介入の際には, SO高齢者の安全性を確保するために, 介入補助が5名ほど必要である. 身体組成の改善を客観的に検証するために, 介入前後にDXA計測の経費が必要である. 血液分析に当たっては, レプチン, ビタミンD, IL-6, 高感度CRP, シスタチンC等々の分析費用が発生する.
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