研究課題/領域番号 |
26282214
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
長澤 和夫 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10247223)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グアニン四重鎖 / テロメア / トポロジー / G4アフィニティカラム / テロメスタチン / ビオチンプローブ |
研究実績の概要 |
DNAの高次構造であるグアニン四重鎖(G4)は、遺伝子の転写制御に関係し、その探索は新たな創薬標的の発見につながる。また、各G4形成配列を選択的に安定化することができれば、当該G4由来の機能を選択的に制御することができる。我々はこれまで、大環状ポリオキサゾール化合物(6OTD, 7OTD)がG4に強力かつ普遍的に結合することを見いだしている。本研究ではこれらの知見をもとに、(1)低分子化合物OTD類を用いた新規G4形成配列の検出法開発、および(2)各G4の選択的安定化、にそれぞれ取り組んでいる。 (1)全ゲノムから一挙にG4形成配列を同定することを目的とし、7OTDへビオチンを導入した新規G4リガンドを開発した。これをアビジンビーズへと結合させ、G4アフィニティカラムを作製した。このカラムに、G4を形成するモデル2本鎖DNA(テロメア配列)を通したところ、目的とするG4形成配列を選択的にpull-downすることができた。本手法は、テロメア以外のG4形成配列に対しても有効であった。全ゲノムからG4形成配列を同定するための基盤構築ができた。 (2)G4由来の生物機能を制御するには、各G4を配列選択的に安定化する必要がある。当該目標に対し、まずG4が形成する3大トポロジー(アンチパラレル型、パラレル型、ハイブリッド型)をそれぞれ安定化するG4リガンドの創製を検討した。その結果、6OTD骨格に導入する側鎖の位置、数を変えることで、アンチパラレル型およびパラレル型をそれぞれ選択的に安定化するリガンドの創製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グアニン四重鎖(G4)はDNA高次構造の一つであり、様々な遺伝子調節領域に高頻度で発現している。従ってG4は遺伝子の発現を司る新たな分子スイッチとして機能していることが示唆されている。しかしごく最近まで、G4を形成する配列は、十数種類しか知られていなかった。我々は、天然G4リガンドとしいて知られるテロメスタチンの母骨格を有する大環状ポリオキサゾールを合成G4リガンドとして開発してきた。さらにこれに種々の官能基を導入することで、目的とする機能を付与したG4リガンドとして活用してきた。今回、ゲノム中のG4形成配列を網羅的に探索するために、7つのオキサゾールをもつ大環状化合物7OTDにビオチンを導入したリガンドを合成し、これを用いたG4アフィニティカラムを作製した。ついでこれを用い、G4形成配列のpull-dwon実験を行った。その結果、目的とするG4形成配列のみを選択的に回収することに成功した。これらの成果は、今後ゲノムワイドにG4形成配列を網羅的に探索するための基盤であり、当初の計画通り目的が達成されている。 また、G4形成配列選択的な安定化を可能とするリガンドの創製研究においては、6つのポリオキサゾールからなる大環状化合物の側鎖の数と位置に着目した誘導体の設計により、G4が形成する3大トポロジーのうちの2つのトポロジーを選択的に安定化するリガンドの創製に成功した。本成果は次年度以降に試みる配列選択的なリガンド創製のための基礎的知見であり、当初の計画通り研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ゲノムワイドなグアニン四重鎖の同定 グアニン四重鎖に対するビオチンプローブを用いてグアニン4重鎖アフィニティプローブを作製し、これを用いることで、既知のグアニン4重鎖形成配列を選択的にpull-downすることに成功した。本手法を基盤に、全ゲノム配列からグアニン4重鎖形成配列をpull-downするためには、現在ビーズカラムに結合したDNA配列を回収する効率が悪い、という問題点を解決する必要がある。これは、現在プローブとして用いているグアニン4重鎖リガンドのDNAへの結合力が非常に強力であるためだと考えられる。そこで、6OTD骨格から伸長している側鎖の位置や官能基を変えることで、DNAへの結合力を調整し、ビーズカラムからのG4形成配列の回収効率の向上を検討する。 (2)グアニン4重鎖を形成する配列への配列選択的安定化リガンドの創製 大環状ポリオキサゾール骨格から伸長する側鎖の位置や数を変化させることで、G43大トポロジーの内の2トポロジーに対して選択的に安定化するリガンドの創製に成功した。本結果は、G4をリガンドにより安定化する際に、G-カルテット平面とG4グルーブを標的にすることで、配列選択的なリガンドの創製が可能であることを示唆する。そこで、G-カルテット平面を認識していることがわかっている6OTD骨格に、既知の様々なグルーブバインダーを系統的に導入し、既知G4形成配列間での安定化に対する選択性を評価する。これにより、G4形成形成配列間での選択的なリガンドの創製基盤を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノムワイドでG4形成配列を探索するための基盤を構築することができた。これをもとに、ゲノムワイドで実際にG4形成配列を探索することを予備的に検討したが、リガンドからのDNA配列の切り出し方法に問題があることがわかった。そこで、リガンドの構造をより結合力弱い化合物に代えることで、ゲノムワイドのpull-downできることの可能性が示唆される結果を得ることができた。これらの検討を行ったため、当初予定していたゲノムワイドなG4形成配列実験への実施が遅れた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、G4形成配列のpull-downを行うためのリガンド側の問題点を解決することができた。 本結果をもとに、次年度では計画とおり、ゲノムワイドなG4pull-down実験を実施する。
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