研究実績の概要 |
イオンチャネル型グルタミン酸レセプター(iGluR)は、脊椎動物の中枢シナプスの神経伝達において中心的な役割を担い、創薬ターゲットとして注目されている。iGluR は20種のサブタイプタンパク質が知られている構造・機能共に極めて多様性の高い受容体であるが、最近、研究代表者の及川はiGluRリガンド候補として多様な構造を有する人工Gluアナログ類の化学合成を行い、酒井(研究分担者)が生物活性を評価したところ、マウスの自発的行動を抑制する化合物IKM-159を見出した。またSwanson博士(Northwestern University, USA)はIKM-159が培養海馬神経細胞の自発的興奮性シナプス電流を抑制することも見出した。本研究では、IKM-159の活性の強さと選択性の向上に取り組みつつ、そのパーシャルアゴニズムあるいはアロステリックな作用機構を構造生物学を含むタンパク質レベルから個体レベルまでの評価系で解明し、神経性疾患の治療薬へと発展が可能なリガンドの創製を目指す。こうしたリガンドは未だ解明されていないiGluRのチャネル開閉マシナリーの解析をも可能にするものである。 本年度は、IKM-159とほぼ同様の構造を有していながら、その個体レベルでの活性が逆の興奮性であることが疑われていたIKM-154の①ラセミ体での大量合成と、②不斉合成、を行った。その結果、IKM-154は微弱ではあるがたしかにマウスに対し興奮性を示し、その(2R)体が活性を担っていることを明らかにした。構造活性相関、およびAMPA受容体との相互作用が解明されているIKM-159に関しすでに得られている知見を考慮し、今回のIKM-154もAMPA受容体に対し同じ位置に結合して、その機能を亢進させていることが示唆された。
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