未交尾オスマウスと父マウスの脳スライスを作成してcMPOAやBSTrhの細胞からホールセルパッチクランプ法による単一細胞記録を行い、神経伝達物質や自発発火頻度などの生理学的な基本特性を明らかにした。バイオサイチンを含む電極内液を細胞質に導入、記録終了後の脳スライスをc-Fosまたは前半で明らかにしたマーカー分子と記録細胞のビオチン・アビジン反応による二重染色を行うことで、行動に活性が相関する細胞を事後的に同定した。このことからメスとの交尾・同居の経験によって父性が発現し子を養育するようになるに伴い、cMPOAとBSTrhにおいて電気刺激誘発性抑制性シナプス電位eIPSPがそれぞれ低下・上昇するという変化が起こることをみいだした。 またDREADDシステムのGiを組み込んだアデノ随伴ウィルスを利用し、cMPOAや交尾で活性化するMPNm(内側視索核内側部)をさまざまな交尾前後のタイミングで制御した後で養育実験を行なったが、残念ながらDREADDのGqに比べGiはMPOAにおいて効果が少なく、行動に及ぼす影響が計測できなかった。そこで、かわりにNMDAの神経毒性を利用する方法で、cMPOAを阻害した後に上記の社会経験によるBSTrhのeIPSP上昇という可塑的変化が消失することを見出している。 一方、BSTrhのeIPSP変化の生後発達を検討したところ、離乳後思春期にかけて、eIPSPが低い状態になることが明らかになった。これは、離乳直後には雄マウスは子殺しを行わずむしろ子を養育するが、その後子殺しを行うようになるという行動変化と一貫した結果であった。
なお上記の研究は天野大樹連携研究者との共同研究である。
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