ある行動をすべきかどうかの判断は、行動した結果得られる報酬価値(ベネフィット)とその行動に費やされるコストとの比較をもとに行われる。本研究は,コスト・ベネフィット比較に基づく行動意欲の制御の神経回路とその仕組みの解明を目的とする。 H28年度は前頭眼窩野から神経投射をうける線条体領域である吻内側尾状核が報酬量に基づく意思決定に関与することを明らかにした。H29年度は、報酬量に基づく意思決定課題遂行時のサルの吻内側尾状核と、その投射先である腹側淡蒼球から神経活動記録を行った。その結果、どちらの神経核にも報酬量をコードする神経細胞の一群が確認し、また水分報酬の需要に関係すると考えられる情報を反映していることを確認した。報酬量や報酬需要をコードする細胞の割合や強度は腹側淡蒼球の方が大きかった。GABAA受容体アゴニストであるムシモルを両側の腹側淡蒼球に局所注入してその機能を不活化すると、指示に従った正しい反応に障害がみられ、特に指示の前に反応してしまうなどの未成熟な行動が多く観察された。この障害を詳しく分析した結果、正常では報酬量や水分需要レベルに基づいていたベネフィット判断が障害されている可能性が示唆された。これらの結果より、前頭眼窩野 吻内側尾状核-腹側淡蒼球のネットワークは、報酬量など価値に基づく意思決定に必須の役割を果たすことが示唆された。
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