研究課題/領域番号 |
26283005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
玉田 芳史 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (90197567)
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研究分担者 |
相沢 伸広 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 准教授 (10432080)
上田 知亮 東洋大学, 法学部, 准教授 (20402943)
河原 祐馬 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (50234109)
木村 幹 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50253290)
鈴木 絢女 同志社大学, 法学部, 准教授 (60610227)
ホサム ダルウィッシュ 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター中東研究グループ, 海外研究員 (60615235)
中西 嘉宏 京都大学, 東南アジア研究所, 准教授 (80452366)
日下 渉 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (80536590)
岡本 正明 京都大学, 東南アジア研究所, 准教授 (90372549)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 司法化 / 民主化 / 憲法裁判所 / 立憲主義 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、東南アジア諸国の政治体制変動とりわけ民主化において、司法がどのような役割を果たしているのかを地域研究の観点から実証的に比較検討することにある。取り上げるのは、東南アジアからタイ、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、マレーシア、東アジアから韓国、南アジアからインド、中東からエジプト、そしてロシアの9カ国である。 平成27年度には、分担者がそれぞれに研究を進める一方、平成27年5月23日、11月21日および22日、そして平成28年2月14日の3度にわたって研究会を開催した。5月の研究会で、研究代表者が政治の司法化に関する先行研究を詳しく紹介し、全員で司法化に関する理解を深めた。続く2度の研究会では、各国の事例をその中にどう位置づけて理解したらよいのかを検討した。 それに加えて、平成27年12月14日および15日には、京都大学においてタイの民主化と司法化に関する公開国際シンポジウムを開催した。報告者15名(タイ人11名、日本人3名、アメリカ人1名)、討論者2名(タイ人2名)、聴衆は50名ほどであった。タイにおける政治の司法化に関する理解が大いに深まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
政治の司法化に関する先行研究のレビューを行った上で、各国の司法化の現状を正しく位置づけることができた。しかしながら、司法化と民主化のどちらを独立変数・従属変数にするのか、共通の理解を十分には確立できなかった。 今年度の研究で明らかになった知見のうち特に重要なのは次の2点である。第1に、政治の民主化が、権威主義体制から民主主義体制への移行期、その後の定着期に分けて理解されるように、司法化も民主主義体制の年齢ないし安定度に応じて考察する必要があることが分かってきた。政治の司法化はドイツでナチスが権力を握ったことへの対抗措置として第二次世界大戦後に広まった。そこでは、政治の司法化によって、民主主義を多数派の暴走から守るということが強調される。他方、現代世界の司法化は、1970年代以後の民主化の第三の波とともに登場しており、多数派支配への防波堤よりも、始まったばかりの民主政治を定着させることが重視される。たとえば、民主化後に最初に実施される選挙で勝利した勢力が、憲法を改悪・無視して、居座りを続けようとすることへの歯止めである。本研究が対象とするここ30年間に登場した新興民主主義体制では(インドは例外)、1940年代以前に始まる既存民主主義体制とは状況が大きく異なるにもかかわらず、多数者の暴政を持ち出して、弱者ではなく特権層としての少数派を守ろうとする動きも観察される。それは司法化が民主化を阻害する事例である。 第2に、政治の司法化は司法審査(違憲審査)だけには限られないことが明らかになった。司法化には、民選の国民代表(大統領もしくは内閣)vs.非民選の司法機関という側面があり、後者には裁判所のほかに、汚職取締や会計監査などの機関も含まれる。それらも視野に入れないと、司法化について的確な理解が難しい。
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今後の研究の推進方策 |
各国の実状が異なることを踏まえた上で、司法化と民主化について研究視角の統一性を極力追求する。その際には、政治の司法化には、1)立憲主義に基づく違憲立法審査、2)裁判所が法令や判例からの逸脱を憚らず判断を下す司法積極主義、3)あらゆることが司法判断の対象にされる司法化といった段階があることを踏まえる。 研究の円滑な進捗を図るために、平成28年6月の日本比較政治学会研究大会において、本研究から成果の一部を発表するよう企画を組み、報告予定になっている(採択決定済み)。11月のアジア政経学会研究大会においても、本研究から成果の一部を発表できるように、申請を計画している。年度末には、各自が単発の論文として学術雑誌に投稿・掲載されうる水準の原稿を仕上げて成果報告書を作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年12月開催の国際シンポジウムに関連して、1)招へいを予定していたタイ人研究者の中に来日できなくなったものがいた、2)参加したタイ人研究者のなかに本研究からの旅費助成を必要としないものがいた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度末に作成する研究成果報告書を、当初の予定よりも充実したものに仕上げる。
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