研究課題
本年度は、粘土板に使われた胎土をイラク古代河川の堆積土と比較することにより、その起源を明らかにすることを目指した。そのため、①シカゴ大学オリエント研究所博物館収蔵の土製品(粘土板・封泥)の調査、②イラク古代河川跡を掘削して得られた堆積土サンプルの生物・化学分析、③土壌塩化に関するシュメール語文献の調査、④国際共同研究ならびに国際シンポジウムの開催、を4つの軸として研究を進めた。①シカゴ大学オリエント研究所博物館では、粘土板ならびに封泥を顕微鏡にて調査し、生物指標(珪藻・有孔虫・円石)の調査を行なった(辻・渡辺)。またシカゴ大学による発掘調査で出土した粘土板ならびに封泥について、出土地ごとに携帯型蛍光X線装置を使って化学組成の非破壊分析を行なった(アルタウィール・渡辺)。②昨年度、掘削を行なって採取したイラク南東部の20地点・南部マーシュランドの11地点・南部の都市ラルサ近郊の2地点の堆積土サンプルについて、珪藻分析(辻)ならびに化学分析(安間・申・小口千明)を行なった。③古代塩害の文献調査は、8月にウィーン大学研究者と共同で行ない、論文投稿に向けて具体的な作業を進めた(高井・渡辺・ゼルツ)。④これまでの研究成果を共有するため、共同研究を11月8~15日に京都・高野山・東京で行ない、11月14日には公開の国際シンポジウムを埼玉大学東京ステーションカレッジにて開催した。また次年度研究活動の協議のため、1月23日に国立科学博物館植物研究部(つくば)において分析を担当する関係者会議を開催した(渡辺・辻・安間・小口千明ほか)。このほか、メソポタミアにおける古河道のGISデータ分析から、人工的な古河道(古代運河)と自然的な河道を分離する手法の開発(小口高)、ティグリス川上流域の新石器時代遺跡から出土した動物遺存体の分析(本郷)等を行ない、ニュースレター7号を編集した。
2: おおむね順調に進展している
粘土板等土製品の胎土における生物分析(微化石)から、新たな学術的新知見を構築する発見があり、粘土板胎土の起源解明について大きな進展があった。また、イラクにおける政情不安が続く中、現地研究者との密接な連携で得られた堆積土試料の分析が順調に遂行され、粘土板胎土分析と連携した研究において重要な進展があったため。
平成28年度は、遺跡ギルス(ラガシュ)とその近郊に焦点をあて、都市に水を供給した古代河川跡の調査ならびに粘土板胎土の分析を行なう予定である。そのために、大英博物館調査隊が行なっているギルスの発掘調査と密接に連携し、遺跡の中を流れた運河の発掘調査ならびにコア・サンプルの採取に向けて準備を進める。
試料分析の謝金として使う予定だった予算について、分析が当初予定した時間より早く完了したため、僅かな残金となった。
次年度の試料分析費用として使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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