研究課題/領域番号 |
26284001
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
信原 幸弘 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10180770)
|
研究分担者 |
亀田 達也 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20214554)
鈴木 貴之 南山大学, 人文学部, 准教授 (20434607)
立花 幸司 熊本大学, 文学部, 准教授 (30707336)
唐沢 かおり 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50249348)
松元 健二 玉川大学, 付置研究所, 教授 (50300900)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 道徳理性 / 道徳感情 / 共感 / 自由意志判断 / 有責性判断 / 道徳/慣習の区別 |
研究実績の概要 |
道徳判断に関して、道徳感情と社会的認知の相互作用をモデル化するために、それに関連する研究をいくつか行った。まず、第一に、サイコパスが道徳と社会的認知の区別がうまく行えないという事実を考察して、道徳と社会的慣習の区別が他者危害の有無に基づくことを明らかにした。第二に、他者の痛みに対する共感反応の生起プロセスの解明に取り組んだ。第三に、他行為可能性の概念を軸にして、自由意志判断および道徳的責任判断のメカニズムを実験哲学的に考察した。第四に、有責性判断・他者への制裁意図・不平等是正判断に関する質問調査を実行し、その分析を行った。第五に、道徳直観・自由意志信念・推論バイアスを軸にして道徳判断メカニズムの分析を行った。 また、道徳行為に関して、道徳理性と社会的認知の相互作用をモデル化するために、それに関連する研究として、道徳理性が社会的認知の影響をどのように受けるかを解明した。そしてそれとともに、道徳感情と道徳理性が相互作用を有しつつも、基本的には独立であるために、道徳理性が社会的認知の影響を受けても、道徳感情はその影響を受けず、それゆえ道徳感情と道徳理性のあいだに葛藤が生じることがありうることを理論的に考察した。 以上の研究により、道徳理性、道徳感情、社会的認知は、互いに相互作用しつつも、それぞれ基本的に独立の過程であり、どれかが基礎となって他のものがそれに依拠するというような一方向的な関係ではないこと、そしてそれゆえ、この三者は互いに協調・調和することがある反面、逆に互いに対立・葛藤することもありうることがある程度、明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
道徳判断に関して、道徳感情と社会的認知の相互作用をモデル化すること、および道徳行為に関して、道徳理性と社会的認知の相互作用をモデル化することを研究目標に掲げたが、それらの網羅的なモデル化はもちろん行えなかったものの、共感、理性的考慮、責任帰属、意図帰属など、いくつかの重要な側面に関してモデル化を行うことができた。 また、これらの研究を通じて、道徳感情、道徳理性、社会的認知が互いに相互作用しつつも、基本的に独立であること、それゆえ協調関係だけではなく、葛藤関係も生じうることがそれなりに明らかになったことは、明示的な目標としてそれをとくに掲げていなかったもの、重要な副産物だと言える。 道徳感情、道徳理性、社会的認知の相互作用のモデル化については、社会心理学的研究、実験哲学的研究、理論的な哲学的研究を同時並行的に行ったが、それぞれの成果を互いに照合するという点に関しても、まだ不十分ながら、初年度としてはある程度、それを行うことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
道徳判断について、道徳感情と社会的認知の相互作用をモデル化すること、および道徳行為について、道徳理性と社会的認知の相互作用をモデル化すること、この二点については、ある程度の成果が挙げられたので、今後は、道徳判断と道徳行為を導く認知的相互作用について、別の側面のモデル化を行う。 まず、道徳判断について、道徳理性と社会的認知の相互作用のモデル化を行う。ある行為が規則違反かどうかの判断は社会契約に特化した認知によって駆動されるとされ、その契約的認知はその行為の意図性の認知やその状況に関わる人への視点の想像によって促進されるとされてきたが、このような現象を基本的な道徳心理現象として理解しなおし、道徳判断のモデルに組み込む。とくに契約的認知を「義務と権利の計算」を行う道徳理性の働きとして再概念化し、一連の認知プロセスを道徳理性と社会的認知の相互作用としてモデル化する。 また、道徳行為について、道徳感情と社会的認知の相互作用をモデル化する。いわゆる「グループ・ダイナミクス」の心理学では、集団内での協力行動についての研究がなされてきており、とくに最近では、何らかのコストを払ってでも、非協力的行動をとる者に対して「罰」を与えようとする行動傾向が人間には存在していることが明らかにされつつある。この行動傾向についての説明としては、これまで否定的感情による媒介という考えによって説明するものだけだったが、この現象を新たに道徳感情と社会的認知の相互作用として説明するモデルを構築する。
|