研究課題
道徳的行動(それをもたらす道徳的判断や意思決定も含む)がどのような要因によって決定されるかを研究した。道徳的行動の決定因については、従来、性格を重視する徳倫理学的な立場と、状況を重視する状況主義的な立場との間で論争がなされてきたが、研究の結果、いずれの要因も関与するとの結論に至った。道徳的行動は内的要因(個人の性格や価値観など)と外的要因(個人を取り巻く環境のあり方)の両方に影響される。しかも内的要因は不変ではなく、それまで個人がどのような状況のもとでどんな経験をしてきたかによって変化しうる。たとえば、リスクをどれくらい重視して道徳的な意思決定を行うかは、個人が自分の場合にその決定を行うときと他者の場合に他者の決定を代行するときとでは違いが見られるが、その違いは個人の「社会的価値志向性」の程度によって異なることが見出された。また、犯罪場面や社会的ジレンマ状況での道徳的判断は、理性的、論理的判断を重視するフレームを採用したときに、心理的距離および自由意志信念によって影響され、情動が支配的なフレームでは必ずしもそうではないことが分かった。さらに、脳機能イメージング法を用いた実験により、社会規範に対する説得を受けて規範への賛成の度合いが高まるときには、社会性に関わる脳の諸領域の活動が上昇し、そうでないときには側頭葉の一部の活動が上昇することが明らかになり、社会規範の影響に関して一つの脳科学的な実証も得られた。このほか、情動は世界の価値的なあり方を把握するものであり、それゆえ適切な道徳的情動は適切な道徳的判断や行動を導くことを哲学的に論証した。また、実験哲学的な手法により、道徳的直観の批判的検討行い、倫理学の理論構築における道徳的直観の役割について見直しを行うとともに、道徳的直観が道徳的判断・行動に及ぼす影響を再考した。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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