研究課題/領域番号 |
26284020
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研究機関 | 新潟県立大学 |
研究代表者 |
石川 伊織 新潟県立大学, 国際地域学部, 教授 (50290060)
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研究分担者 |
笠原 賢介 法政大学, 文学部, 教授 (10152620)
柴田 隆行 東洋大学, 社会学部, 教授 (20235576)
後藤 浩子 法政大学, 経済学部, 教授 (40328901)
山根 雄一郎 大東文化大学, 法学部, 教授 (50338612)
神山 伸弘 跡見学園女子大学, 文学部, 教授 (60233962)
村田 宏 跡見学園女子大学, 文学部, 教授 (60310330)
小島 優子 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (90748576)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘーゲル美学講義 / 美学 / 美術史 / 美術館 / 絵画 / 芸術政策 |
研究実績の概要 |
1.二度のヨーロッパ調査で収集した資料と文献研究の成果とをもとに、報告書の作成に全力を傾注した。収集した資料は膨大で、この作業には多大な時間を要する。翻訳・論文・資料紹介の部分はほとんど原稿を取りまとめたが、図版の整理の途上である。そのため、2017年度分の予算として確保しておいた印刷経費を、2018年度に繰り越す手続きを取った。 2.翻訳篇は現在刊行されている1820/21年講義と1823年講義、1826年講義2点の絵画論部分の他に、ヘーゲルのフランス人の弟子Victor Cousinによる1823年講義のフランス語版筆記録の絵画論を加え、さらに書簡集から絵画にかかわる書簡を抜粋収録した。 3.資料・論文篇は、1820-30年代にヘーゲルが訪ねた美術館のその当時に刊行されたカタログを中心に、各美術館の収蔵状態を推測することのできる銅版画集等を加えて一覧表とするとともに、解題あるいは論考を加えた。この過程で、フランス革命による美術品の散逸とナポレオンによる略奪、さらにはその返還にかかわる経緯が明らかになった。また美術館における歴史的展示の具体像も明らかにすることができた。 4.図版については、画像の著作権を考慮しつつ、ネット上からフリーでダウンロードできるものを中心に、ヘーゲルが見たであろう作品群を特定する作業中である。 5.ヘーゲルの1820/21年の「美学講義」の筆記録は、本研究とは別に、代表者の石川も加わって全巻の翻訳が完成し、2017年4月に法政大学出版局より G.W.F.ヘーゲル『美学講義』(叢書ウニベルシタス1057、寄川条路監訳、石川伊織・小川真人・瀧本有香訳)として刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
収集した文献が多岐にわたり、かつ膨大であったことが遅延の第一の理由である。共同研究者の執筆になる論考はどれも、詳細な研究によって高い完成度を持つものとなっている。とはいえ、本研究の眼目は、ヘーゲルの絵画鑑賞の実際を、美学講義や書簡や年譜等から明らかにすることを通して、ヘーゲルが実際に見た作品、見ていると考えられる作品、見ることが可能であった作品、見ることが不可能であった作品を明確にするとともに、一方では、こうした芸術体験がヘーゲルの芸術理論に与えた影響を明らかにするとともに、他方では、これらの作品群がどのようにしてヘーゲルに鑑賞されるに至ったのか、そしてその後これらの作品群がどのような経緯で現在に至っているのか、すなわち作品の来歴と帰属の変遷を明らかにすることである。収集した資料が膨大であるため、当時のカタログに掲載された作品を特定することから始まるこの作業には、莫大な時間がかかっている。現在の遅延の最大の理由は、この画像の確定作業に手間取っていることにある。 第二の理由は、複数の共同研究者の職務上の地位にかかわる業務の多忙さが発生したことにある。所属大学の要職にある研究者も複数含まれるため、特に昨年来、大学の管理業務との兼ね合いが問題となっている。代表者の負担が重くなってはいるが、研究計画の完全な遂行を目指して鋭意努力中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.まずは報告書の完成を目指す。現在、予定のページ数は500ページ強となっている。そのうちの400ページまではほぼ原稿がそろっている。これを完成させることが重要である。なお、報告書には収集した資料それ自体のPDFと図版とを含むDVDを付録として添付する予定である。 2.この報告書をまとめると、本研究は一段落することとなる。この研究の過程で、ヘーゲルがベルリンの美術館建設にかかわる何等かの働きをしていること、また、ワイマールの美術アカデミーに対するゲーテの尽力を通して、ヘーゲルの絵画思想が実際の教育に反映されていることが明らかになりつつある。この問題をさらに究明することを目指したい。 3.アカデミーと美術教育の問題は、ヘーゲル美学研究においてこれまで重視されてこなかったテーマである。美学思想がもっぱら鑑賞する者のために構想されてきたという歴史からすると、ヘーゲルはこの歴史から大きく逸脱し、創作論にも踏み込んだものとさえ考えられる。この点からしても、ヘーゲルの美学講義が「芸術の哲学」という構想を持つことは、単なる美学の言い換え以上の意味があったとみてよいだろう。ヘーゲルの美学思想は、単なるロマン主義批判でもなければ、古典主義を擁護するだけのものでもないのは明らかである。ここからは、従来ヘーゲル美学研究で過度に強調されてきた「芸術終焉論」に新たな光を当てることが可能となるだろう。今回の研究の成果である実証的な事実把握をもとに、ヘーゲルにおける芸術の「哲学」にを考察する次なる研究に進みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、報告書のとりまとめ中であるが、原稿の整理と版下の作成に時間がかかっている。とりわけ、図版を多用する予定であるため、この作業に思いのほか時間がとられた。冊子版に掲載する予定のこの図版は、著作権の問題もあってモノクロームとする予定であるが、付録として添付予定のDVD-ROMがかなりのデータ量となることが予想されている。このため、2018年3月末までの製本は断念し、印刷・出版のために予定していた費用を次年度に使用することとした。現在、入稿直前の段階までこぎつけており、今秋には刊行予定である。
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