研究課題/領域番号 |
26284033
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
日比野 啓 成蹊大学, 文学部, 准教授 (40302830)
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研究分担者 |
神山 彰 明治大学, 文学部, 教授 (20287882)
井上 優 明治大学, 文学部, 准教授 (20406797)
中野 正昭 明治大学, 文学部, 兼任講師 (40409727)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本近代演劇 / オーラル・ヒストリー / デジタル・アーカイヴ / 商業演劇 / 歌舞伎 / 伝統芸能 / 喜劇 |
研究実績の概要 |
以下の十三人の演劇人・評論家・研究者に聞き書きを行い、一九三〇年代後半から七〇年代の演劇文化の再現をはかるという所期の目的を果たしつつある(五十音順・敬称略)。芦屋小雁(俳優)・安部寧(音楽評論家)・薄井憲二(舞踊史研究家・舞踊評論家・元東勇作バレエ団団員)・大月隆寛(民俗学者・元早稲田興行主宰)・菊池明(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)・熊倉一雄(俳優・演出家)・小石新八(舞台美術家・武蔵野美術大学名誉教授)・小島慶四郎(俳優・松竹新喜劇)・三代目渋谷天外(俳優・演出家・松竹新喜劇)・檀上茂(吉本新喜劇座付作家)・左とん平(俳優)・福田逸(演出家・翻訳家・明治大学商学部教授)・守美雄(元東京新聞記者・かたばみ座制作者)。このうち、以下の七人については、研究代表者・研究分担者・研究協力者が一二〇〇字程度のイントロダクションを執筆したうえで、ウェブサイト「日本近代演劇デジタル・オーラル・ヒストリー・アーカイヴ」(http://oraltheatrehistory.org)で公開した。芦屋小雁・薄井憲二・菊池明・熊倉一雄・檀上茂・福田逸。各人によって公開した長さは異なるが、一回二時間から三時間半の聞き書きを行い、合わせて約二十四万字、四百詰め原稿用紙に換算して約六〇〇枚になった。九月十九日、明治大学にて民俗学者・大月隆寛(札幌国際大学)氏を講師として研究会を開催し、現地取材・聞き書きの困難さを語っていただいたあと、十二名の参加者間で活発な議論を行った。こうして得られた成果をもとに研究分担者である神山彰による編集で『商業演劇の光芒』(森話社)を刊行し、神山・日比野・中野が執筆した。『商業演劇の光芒』を含め、四人の研究の研究成果は十六本の論文・二本の招待講演・十六冊の著書(いずれも共著)にのぼった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度の予算配分額をもとに、十二人の聞き書きを計画したが、実際には十三人に聞き書きができた。予定通り研究会を開催し、演劇学以外の研究者の多数来訪を得て、聞き書きの「正確さ」にまつわる困難さについて忌憚のない意見の交換ができた。 研究代表者・研究分担者による個人ベースの研究は順調であり、とりわけ神山彰編『商業演劇の光芒』では、神山・日比野・中野の三人が本研究の成果を十分に披露することができた。『商業演劇の光芒』を含め、四人の研究の研究成果は十六本の論文・二本の招待講演・十六冊の著書(いずれも共著)にのぼった。 一方、聞き書きをしたあとの文字起こし・編集校正作業に予想していなかった以下のような障害が見られ、ウェブサイトでの公開は七名にとどまった。(1)文字起こし業者の処理能力を上回る依頼ができなかった。専門用語の聞き取りが必要なため、信頼できる文字起こし業者は一社しかない。この会社が当研究課題以外の発注もあるので年度内の納品が難しいと回答してきたため、三人の当年度中の文字起こしを断念した。(2)研究協力者の能力を過大に見積もっていた。文字起こし後に十分な編集・校正をしないと話し言葉を十分理解できる文脈のもとに配置できない。三人の研究協力者のうち、一人がその水準の編集・校正ができなかったため、研究代表者による編集・校正作業の負担が著しく増大し、本研究に割けるエフォートを超えた。その結果、文字起こしした二人の聞き書きの編集・校正作業が本年度中に終わらなかった。(3)聞き書き対象者が完成した編集・校正に際して厳しい注文をつけてきた。編集・校正作業を行い、公開するのにふさわしい「まとまり」がついたと判断した原稿を公開前に聞き書き対象者に送付し、内容の確認と疑問点の解消を行うが、一人の聞き書き対象者の方がその内容に不満を表明し、当年度中の公開に至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は十人の聞き書きを、翌年度・翌々年度はあわせて二十人程度の聞き書きを行い、研究期間終了までに四十人程度の演劇人・評論家・研究者の聞き書きをウェブサイトに公開する。この目的のため、聞き書き対象者との交渉を積極的に進める。すでに「交渉リスト」には三十人以上のお名前が並んでいるが、固辞する方や、交渉中に物故される方などもいるため、引き続き検討を進める。直近では市川少女歌舞伎の中心的人物だった市川梅香・福升両氏への聞き書きが決まっている。 オーラル・ヒストリー・アーカイヴをウェブサイトで公開するにあたり、いくつか解決しなければいけない条件があることを昨年度の経験から学んだので、聞き書き→(聞き取りが難しい箇所や固有名詞についての注記を加えた上で)文字起こしを業者に依頼→研究協力者による編集・校正、という一連の作業を可及的速やかに終えるように努力する。 今年度も研究会を開催し、演劇学以外の研究者で聞き書きを研究手法として取り入れている方を講師としてお呼びし、知見を共有する。翌年度・翌々年度は日本演劇学会でのシンポジウムおよび国際シンポジウムを開催し、演劇学におけるオーラル・ヒストリー・アーカイヴの可能性を話し合う場をもうける。 本年度は森話社から「近代日本演劇の記憶と文化」シリーズとして中野正昭編『ステージ・ショウの時代』(第三巻)・神山彰編『歌舞伎と新劇の交差』(第四巻)・日比野啓編『日本のミュージカル』(第五巻)を刊行し、中野・日比野・神山がそれぞれの巻に執筆する。翌年度・翌々年度も、当シリーズの刊行を予定している。それ以外では、本年度日比野は日本演劇学会全国大会シンポジウム「モダン・パジェントの国際的展開と変容」において司会・基調報告を行い、神山は白水社より刊行される『大戯曲事典』の監修者として携わる(日比野・井上は寄稿者として参加)。
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次年度使用額が生じた理由 |
文字起こしを依頼する業者の繁忙期にあたり、納品が年度内に無理であると回答してきたことから、本年度での使用ができなかった。その一方で、会議にかかる会食費が予算よりかかったため、差し引き31,813円の余剰が生まれた。
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次年度使用額の使用計画 |
31,813円については次年度以降の文字起こし費用として使用する。
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