研究課題/領域番号 |
26284035
|
研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
岡崎 乾二郎 武蔵野美術大学, 造形学部, その他 (90388504)
|
研究分担者 |
辻田 勝吉 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (20252603)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 芸術学 / 表象文化論 / 身体表現 / 技能伝達 / 美術史 / 真贋判定 / 技術論 |
研究実績の概要 |
本研究ではメディウムを単なる手段(mean)ではなく、人間の意志に対向し、競合する自律した存在=抵抗物として捉え、この抵抗物との恊働こそが人間精神の創造をうながし技術を成長させるものだと考える。具体的には絵画のメディウムとしての支持体(画材、画面)自体を描画者に対等に対向し運動する自律系として捉える。これを趣旨に独自に開発した「相対運動描画ロボット」を用いて、様々な相における媒体的認識(入力情報や出力情報を対象化して捉えるのではなく、それらの変換過程自体を把握する認識)の発現を目指して、研究遂行中である。
昨年度は、フェーズⅠ「相対運動描画ロボットの精緻化と実証的検証」を推進した。今年度は、当初の計画通りに、フェーズⅡ「描画応答の分節化と構造化」に着手し、描画者とロボットの恊働関係(主体とメディウム=主体、の交錯、交換、入替え)をより精密に構造化させ展開させる方法論の確立に向けて、研究を前進させた。具体的には、ロボットと描画者の応答を細密に分節化、描画者の手の運動を確率的に予測して先にロボットに運動させる入力プログラムの開発に取り組み、芸術作品の制作に使用できるレベルにまで実装することができた。これにより、描画意図が描画者にのみに帰属するのではなく、むしろメディウム(ロボット)によって誘発、先導される場面をさらに前面化させることができたと考えられる。
また描画想起実験をおこない、描画者が忘却していた技術や描画意図がロボット(メディウム)によって誘発され、描画者に再動機化=想起されることが可能になることを明らかにした。これにより忘れていた勘、かつて可能であった身体技能が取り戻される場面を検証することも可能になると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している。全体として85%程度の達成度である。 本研究課題の主たる課題は、独自に開発した「相対運動描画ロボット」を用いて、様々な相における媒体的認識(入力情報や出力情報を対象化して捉えるのではなく、それらの変換過程自体を把握する認識)の発現を促すものであった。今年度は、ロボットインタフェースをさらに洗練させ、描画主体の拡張と可塑性(入力作家と出力ロボットと描画者の3者の協働)を元にした制作を可能にするほどの、「描画応答の分節化と構造化」についての知見を得ることができた。また、描画想起実験をおこなって、失われた勘を取り戻すための支援技術の開発につながる実証データを得ることができた。以上のように、研究が前進したため、全体の研究目的達成度は標記のように判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、最終フェーズとして、「Ⅲ 内的把握変換群のデータ化」に着手する予定である。これまでに開発した相対運動描画ロボットにより、運動把握が固定点(身体を動かさず、触れる点を固定する)における触覚(質感の変化)によって可能になること、また、この運動把握により視覚像の把握も可能になることは実証された。すなわち触覚→(運動把握)→視覚という変換は検証された。この事実は、触覚→視覚は、それ自体は感覚に対応しない(強度と次元の変数によって構成される)入力情報の時間変移=運動データを媒介にして変換されうることを示唆する。これはひとつの様相(モダリティ)から別の様相へとシグナル(エネルギー)を変換するトランスダクションに喩えられる。たとえば、従来、筆触として呼ばれてきた素描にあらわれる様相は、触覚情報→視覚情報に変換されたものとして考えることができよう。すでに今年度までに取得した運動情報から筆触の再現が可能であることが実証された。これを可逆的に扱い、筆触として現れた視覚情報から触覚情報(つまり運動情報)をは遡行的に把握できるか、の検証に最終年度では着手する。 まとめれば、これまでの研究で、すでに一点の触覚情報から触覚運動把握、視覚情報の把握が可能であることが実証されたが、絵画の鑑賞者は視覚情報として様相から、すでに運動情報をかなりの精度で受け取ること(再現すること)が可能である、ことを検証し、アーカイブの充実に着手する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
資料整理が順調に進み、アルバイト謝金を減額することができたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
描画ロボットの部品購入に使用する予定である。
|