研究課題/領域番号 |
26284053
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大浦 康介 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (60185197)
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研究分担者 |
日高 佳紀 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (00335465)
河田 学 京都造形芸術大学, 芸術学部, 准教授 (00569923)
齋藤 渉 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20314411)
西川 貴子 同志社大学, 文学部, 教授 (20388036)
久保 昭博 関西学院大学, 文学部, 准教授 (60432324)
笹尾 佳代 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (60567551)
中村 ともえ 静岡大学, 教育学部, 准教授 (70580637)
岩松 正洋 関西学院大学, 商学部, 教授 (80273952)
永田 知之 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (80402808)
ホルカ イリナ 京都大学, 人文科学研究所, 講師 (40760343)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 文学理論 / フィクション論 / 物語論 / エコクリティシズム / 動物論 |
研究実績の概要 |
(1)文献調査とフィールドワーク:明治期以降の日本の文学理論関係文献およびそれらが依拠・論及する洋文献(一部漢文献)についての調査は、27年度でほぼ完了したといってよい。『日本の文学理論――アンソロジー(ベータ版)』(平成27年3月刊、以下『アンソロジー』と略記)の文献年表で公表した基本データに加えて、本年度にとくに充実をはかったのは、生命論、精神分析、動物哲学といった分野の文献である。 また、27年度からは、海外の大学における日本文学研究・教育の環境と実態に関するフィールドワークを始めた。まず9月にルーマニアのディミトリエ・カンテミール大学で開かれた日本学研究集会に参加し、『アンソロジー』にもとづく基調講演とパネル発表を行った。また11~12月にはフランス国立東洋言語文化学院(INALCO)、パリ第7大学東アジア言語文化学部(LCAO)、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)を、28年3月には国立台湾大学日本語文学科と淡江大学村上春樹研究センターを訪問し、講演・パネル発表・ワークショップなどを行うとともに、日本文学に関する理論教育の現状や可能性についての意見交換、図書館視察などを行った。 (2)研究会と意見交換会(国内):定期的研究会においては、前年度に引き続き重要文献の会読を進めた。27年度はとくに文学論争やフィクション論に関する文献を会読した。また、10月には西田谷洋富山大教授を、28年2月には日比嘉隆名古屋大准教授を招いて、前年度に引き続き『アンソロジー』についての意見交換会を開いた。 (3)講演会・シンポジウム:「文芸学再考」と題して、12月に大阪大学文芸学研究会と共催でシンポジウムを開催した。とくに文芸学における岡崎義恵の業績に焦点を絞り、森谷宇一阪大名誉教授と中村三春北大教授に講演をしていただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一の理由は、海外でのフィールドワークで予想を上回る成果を得たことである。ルーマニアのディミトリエ・カンテミール大学で開かれた日本学研究集会はでは、私(大浦)がフィクション論関係の基調講演を、また研究分担者の久保、河田、中村が描写論にかかわるパネル発表を行った。さらに研究分担者の西川とホルカはそれぞれ分科会発表を行った。これらは28年6月に"Dimitrie Cantemir" University's 'Annals of the Faculty of Foreign Languages and Literature' (http://aflls.ucdc.ro/en/)に掲載される予定である。 私が単独で行ったフランスINACO訪問でも多大の成果が得られた。INALCOでは講演、講義、ワークショップを行ったが、とくにINALCOの日本学科教員ほぼ全員が集まった『アンソロジー』をめぐるワークショップでは、明治期以来の日本の文学理論的言説を総合的に検討するというわれわれの試みが高く評価される一方、『アンソロジー』の弱点(短詩型文学の項目がないことなど)も指摘された。仏訳出版の可能性も示唆されるなど、フランス側の関心の高さを認識させられた会合だった。 第二の理由は、国内でも精力的な活動が展開できた点である。特筆したいのは、12月に大阪大学文芸学研究会と共催したシンポジウム「文芸学再考」である。岡崎義恵の文芸学をテーマにシンポジウムを開いたのはおそらく国内で初めてのことではないかと思われる。「岡崎文芸学」は日本では唯一アカデミックな文学理論の一流派を形成したにもかかわらず、それに見合う評価を得てこなかったというのが現状である。稀少な専門家を集めたわれわれのシンポジウムはその再評価に向けた一歩だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)文献調査とフィールドワーク:文献調査に関しては、さらなる補充を行う。27年度に充実をめざしたエコクリティシズムと動物論の分野は、いまだ十分に探査されたとはいえないため、これらの方面での調査をさらに進める。 海外でのフィールドワークについては、28年度は米国の大学を対象に、日本文学研究・教育の現状調査、授業見学、教員との意見交換、図書館見学などを考えている。そのため、現在受け入れ機関と交渉中である。また、東アジアの日本学研究者との交流も近年ますます重要性を増しているという認識から、27年度は国立台湾大学日本語文学科と淡江大学村上春樹研究センターを訪問したが、もし予算に余裕があるなら、28年も同様の理由からタイのチュラロンコン大学を訪問したいと考えている。 (2)定期的な研究会においては、28年度はフィクション論に特化して関係文献の会読と研究発表を行う。6月には、パリ第3大学のフランソワーズ・ラヴォカ教授を招いて、フィクション論に関する教授の最新著についてのワークショップを開く予定である。 (3)講演会・シンポジウム:最終年度である28年度は、7月に、本研究の研究協力者であるフランスINALCOのアンヌ・バイヤール=坂井教授とニューヨーク市立大学のリチャード・カリチマン教授を招き、研究分担者の日高も登壇して、「人文学の未来と文学研究――いま文学理論に何ができるか」と題して国際シンポジウムを開く(司会は大浦)。このような未来志向のテーマを設定したのは、本研究が単に日本の文学理論に関する過去の掘り起こしと総括だけでなく、文学研究の将来とそこで予想される文学理論の役割をも見すえたものであることを示すためである。このシンポジウムは日本の近代文学研究者と文学理論研究者に大きな問題提起を行うはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度は、26年度と同様、研究代表者の所属機関である京都大学人文科学研究所よりRA経費の割り当てがあったため、当初予定していた研究補助者への人件費をそれで賄うことができた。また、ルーマニアへの出張への参加人数が予定を若干下回ったため、旅費の支出が予定より少なく済んだ。これらの理由によって265,499円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にはRA経費の割り当てがないことが分かっているため、次年度使用額はおもに研究補助者への人件費に充てたい。
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