研究課題/領域番号 |
26284061
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松岡 和美 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (30327671)
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研究分担者 |
内堀 朝子 日本大学, 生産工学部, 教授 (70366566)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本手話 / 顕著性 / 否定 / モダリティ / 地域共有手話 / メタファー / ジェスチャー / 非手指標識 |
研究実績の概要 |
【かな由来の手話表現の音韻的制約】指文字が取り込まれて語彙化する「かな由来」の手話単語では手話の音韻パラメータの1つである「位置」と、利き手の身体部位との接触の有無に関連性があることを明らかにした。その理由に接触や追加の動きが手話単語のsaliency(顕著性)を高めることが考えられることを指摘した(論文採択済み)。 【愛媛県大島の地域共有手話の研究】数と時の表現について追加のデータを収集し、ろう者と聴者が手話を共有する地域の歴史的・社会的背景の聞き取り調査を行った。他の共有手話や聴者のジェスチャーも考察に入れた論考をまとめた(論文採択済)。海外の研究で用いられた動画を参照しながら、より文化的に適切な動画を作成し、一致動詞の空間使用を調査した。 【日本手話の否定とモダリティ】日本手話の否定表現とモダリティ表現の共起関係の制限を手がかりに、否定は3つ、モダリティは2つの異なる位置に生じていることを明らかにした。その構造的位置は、語彙の形態・意味的な性質と深く結びついている仮説を提案した。 【数量詞の適用範囲と空間位置】日本・アメリカ・ニカラグアの聴者のジェスチャー動画を収集し、数量詞を含む文を用いる際に'more is up'の空間的メタファーの使用に関して数量的分析を行った(論文投稿中)。 【話題化の非手指標識について】文頭の話題化要素に伴って生じる「眉上げ・うなずき」に加えて、文頭に生じる要素には話題化とは別の非手指動作が伴っている例も観察した。例えば「目細め(ないし視線変化)」であるが,これは従来Referential Shiftの非手指標識とされている。今後の研究でも,これらを含め,非手指標識全般について,複数の標識を厳密に見分けた上で互いの分布(特に共起関係)を記述する必要があることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体テーマである非手指表現に関して、音韻・統語・類型と、新しい知見を報告する研究成果が得られた。国際比較研究プロジェクトでは、3カ国の聴者のジェスチャーに見られる空間メタファーの記述を行い、ろう者の手話言語の使用に見られる空間使用との比較を行う準備が整った。否定とモダリティの研究発表は国際学会で採択され、ポスター発表の会場での交流を通しても、日本手話の統語分析が海外の研究者の関心が高いトピックであることがうかがえた。ろう当事者の研究参加は、継続して活発に行われており、若手研究者を含むろう者が筆頭となる論文や学会発表を複数行うことができた。日本に存在する絶滅危機言語である宮窪手話の研究成果を一般向けの雑誌で平易に解説する機会に恵まれ、その英訳が外務省委託のウェブサイトに掲載されたことも、手話言語とその多様性を一般に知らしめる重要な成果と考えられる。話題化プロジェクトでは聴の若手研究者の積極的な参加がみられた。さまざまな面において、非手指表現の学術的分析が進んだことは事実であるが、数あるプロジェクトの研究成果を総括する機会を十分に設けることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本事業の最終年度であった。今年度の研究成果の学会発表(採択済み)や追加データの収集は、次年度使用額で行う予定である。本事業で顕著な成果があがった否定とモダリティおよび宮窪手話の研究については、仮説を検証するためのデータを追加してより詳細な分析を行う必要性がある。他の研究トピックについても、相互の関連性に注目した広がりのある研究計画を策定したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査先の協力者の事情で、今年度に予定されていた聞き取り調査をすべて実施することができず、一部が翌年度に延期となった。29年度の研究成果のポスター発表が採択された学会の開催は翌年度になるため、出席のための旅費の繰越が必要となった。
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