研究課題/領域番号 |
26284075
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡田 毅 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (30185441)
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研究分担者 |
宮崎 佳典 静岡大学, 情報学部, 准教授 (00308701)
田中 省作 立命館大学, 文学部, 教授 (00325549)
小山 由紀江 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20293251)
杉浦 謙介 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (40196712)
坂本 泰伸 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (60350328)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | e-ラーニング / ブレンディッドラーニング / 英語読解力養成 / 学習者コーパス / 動的教育プラン設計 / TOEFL ITPテスト |
研究実績の概要 |
研究期間2年目に当たる本年度では、開発研究の基幹となるe-ラーニングシステムiBELLEs (interactive Blended English Language Learning Enhancement system)の実稼働を実現し、申請者の所属先である東北大学の全学教育の英語教育の授業で実践的に提供し、学生の学習データを収集することに成功した事が最大の実績と言える。 実践的なデータ収集と共に7月には開発グループ全体、東北大学の英語教員、大学院留学生も含めたワークショップを開催した。夏期休業中は研究発表を多数行い、ブレンディッドラーニングにおける対面式授業の重要性を人間教員の果たすべき役割の明確化という視点も交えて議論した。 秋季以降は、対面式授業とクラス外授業のブレンドモデルをTA等と共に開発し、iBELLEs本体に関して日本eラーニング学会学術講演会で発表を行い、学術奨励賞を受賞した。11月には東北大学の英語教員FDに講師として招聘され、デモンストレーションを行い、英文読解教材の種類、ハイライト機能の有効な活用方法に関する貴重な意見交換を行った。 後期の授業では、iBELLEsを活用する「動的授業プラン設計」に立脚した授業をインフォームド・コンセントによる承諾を得て展開した。iBELLEsのデータ収集の際にネットワークエラーが発生し、その原因究明と改善策の構築中である。サーバーに蓄積されたデータの解析に関して平成28年1月には研究グループで勉強会を実施し、成果をシンポジウム等で公開することもできた。また、学習者データは、EFL学習者が非常に低いハードルと、柔軟なハイライトタグ定義の枠組みのもとで、自らの英文読解プロセスを自らがアノテートした、「学習者による注釈つきコーパス」ととらえることが可能であり、コーパス研究の国際学会での研究発表の申請も採択されるに至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度後半より概要設計を開始し、委託業者との度重なる設計会議等を経て、具体的かつ詳細なシステム仕様を完成させる作業が研究分担者の協力を得て順調に推移した。その結果、当初計画より3か月以上早く、新システムiBELLEsのプロトタイプが年度初めに完成した。 これを受けて、TAおよび留学生大学院生の協力等も得ながら、教材コンテンツの整備と開発を急ピッチで推進し、その結果実践的な授業で利用可能な教材を搭載する目途が予定に先立って確立された。その際に、英文パッセージの読解指導に有益と考えられる注釈のあり方やその内容の種類、および動的評価(dynamic assessment)に繋がる適切な介在(intervention)の仕組み等についての議論を深めることができ、実際にイタリアの国際学会でポスターセッションの形で公開した。その後、数回の性能試験と実証テストを経て、6月中旬にiBELLEsの実用稼働にこぎつけた。 実践授業でのiBELLEs利用に先立ってのインフォームド・コンセント用の資料策定や、基幹データとなるTOEFL ITP (R) Assessment Seriesの英文パッセージ資料の提供を受けた国際教育交換協議会(CIEE)日本事業部との確認も経て、ロゴマークの配置等の著作権関連の折衝も行った。東北大学の全学教育の英語授業「英語A1, B1, C1」の合計4クラスに対してiBELLEsを稼働させるための利用者一括登録システムの整備も東北大学学務情報システムの有効利用によって、滞りなく行われた。 このように、研究計画の基幹となるブレンディッドeラーニングシステム本体とその周辺システム整備、教材準備と学習者管理システムが順調に推移し、実際のEFL対面式授業で利用されたiBELLEsで得られる学習者データの解析に向けての議論をすでに開始するに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を若干上回る好調なペースでシステムの開発研究が進捗している。これを踏まえて、平成28年度当初から、基幹システムであるiBELLEsを通して得られた、また今後得られるであろうEFL学習者データの解析に本格的に着手している。前年度からの検討に基づき、サーバー上のデータを(1)共通の英文教材に対するクラス構成の全学生の読解プロセスの傾向、 (2)習熟度別に範疇分けされた学習者側からのアノテーション傾向の分布と特徴、 (3)TOEFL ITP(R)テストのreading section中の英文パッセージに対する設問に対する正答の学習者層別の分布傾向、というような異なる視点から解析する。 iBELLEsで扱う英文パッセージは、データベース上ではXMLで記述される一種のコーパスデータとして管理されている。教員側の付与したアノテーション情報ならびにシステム利用者である個々の学生がハイライトという形で付与する付加情報などは階層的なデータテーブルとして、リレーショナルデータベースとして管理される。 斬新な点として、学習者がハイライトとして付与した情報を含むデータは、「学習者による注釈付き」の学習者コーパスと定義する事ができるという事である。従来、学習者の産出した英文や表現に対して、研究者が産出プロセス後に分析用のアノテーションを付与したコーパス、即ち「研究者による注釈付き」の学習者コーパス(annotated learner corpus)は大量に構築されている。しかし、本研究で得られ分析の対象とするデータは、教授法に立脚した教員が自由に、そして動的に定義したタグ付与の枠組みに沿って、極めて低い心理的負荷の下で、しかもリアルタイム的に学習者たちが共通する目標英文パッセージに対するアノテーションを、ハイライティングという容易な手法で付与した結果産出されたものと性格付けすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
iBELLEsシステム本体は実践的な稼働の域に達しており、学習者データの多角的な解析に向けての研究準備が進められている。iBELLEsの実践稼働に伴うネットワークエラーは、教員が柔軟に定義したアノテーションの枠組みに従って学習者が英文パッセージにハイライトをするという形で付与するアノテーション情報を取得し保存しようとする際に発生するが、正確な原因究明には数か月間の稼働期間が必要となり、それを経て具体的なシステムの見直しが実施されることになる。このために基金分の経費を次年度に繰り越すことを研究分担者間で確認した。 また、学習者データをより効率的に分析するための解析システムの開発も実施するために、専門的知識の提供に対する謝金およびシステム開発費が発生する。システムの性能評価、データ解析に関わる研究打ち合わせも頻繁に実施する必要があり、このために必要な使用額を次年度に繰り越している。
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次年度使用額の使用計画 |
システムの改良には、特にネットワークエラーが発生し、サーバー上にはデータは確保されているものの、教員画面に「ハイライトセット」として命名の上保存する事ができなくなるという現象の原因を追究し改良を加えるという作業が必要となる。このために、専門的な知識の提供を受けるための謝金、ならびに発注先業者へのプログラム改良経費を確保している。 データ解析・評価グループの研究打ち合わせ、ならびにワークショップ、後援会、国内外での研究発表等に関わる旅費を確保している。特に九州大学で主催される「九州大学異分野融合テキストマイニング研究会」等で推進されているデータおよびテキストマイニング研究の専門家との交流を深化させ、従来になかった新しい形での学習者産出の学習コーパスとしてのiBELLEsデータの多角的な分析を推進する。
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