研究課題/領域番号 |
26284088
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
大野 誠 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (60233227)
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研究分担者 |
奥田 伸子 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (00192675)
伊東 剛史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (10611080)
松波 京子 名古屋大学, 付属図書館研究開発室, 研究員 (10717119)
長尾 伸一 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (30207980)
高林 陽展 清泉女子大学, 文学部, 講師 (30531298)
川村 範子 愛知県立大学, 外国語学部, 研究員 (40644266)
椿 建也 中京大学, 経済学部, 教授 (50278248)
菊池 好行 総合研究大学院大学, 学融合推進センター, 特任准教授 (70456341)
坂下 史 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90326132)
石橋 悠人 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (90724196)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近代イギリス / 科学の制度化 / 公共圏 / 農業協会 / グリニッジ天文台 / 医学研究評議会 / ノーベル賞 / 草の根啓蒙 |
研究実績の概要 |
本共同研究の成果公表の一つとして、研究分担者5名が研究成果を2015年7月4日に総合研究大学院大学(葉山)で開催された化学史学会年会シンポジウム「近代イギリスにおける科学の制度化:イギリス史研究の視点から」で発表した。すなわち、大野誠の「趣旨説明」に続いて、坂下史が「地方都市における農業協会の活動と草の根啓蒙」、石橋悠人が「国営天文台と科学の制度化: 19世紀のグリニッジ天文台を事例に」、高林陽展が「医学研究委員会から医学研究評議会へ: 大戦期の経験と医学研究の制度化」、奥田伸子が「ノーベル賞を受賞した「主婦」: 20世紀中葉イギリスにおける女性科学者と社会」と題して報告した。 次の研究分担者は,それぞれが関与する学会や学術集会で本テーマに関わる研究成果を発表した。松波京子は、オランダで開催された第14回国際18世紀学会、第8回日英歴史家会議、進化経済学会で、伊東剛史はKrakowで開催されたICC-TUFS Joint Seminarやイギリス女性史研究会、歴史学研究会近代史部会で、石橋悠人は政治経済学・経済史学会と19世紀学学会で発表した。 本共同研究内部でテーマについて理解を発展させる目的で、本年度は「公共圏」概念を取り上げ、国内の研究者2名を招聘して発表を行なってもらい、討論した。2016年1月9日に岩間俊彦(首都大学)氏が「討論による市民文化の形成: バーミンガムにおける討論団体1850-1890年、ジョン・ブライトンに関する討論を中心に」、3月13日に田中拓道(一橋大学)氏が「公と民の対抗から協調へ: 19世紀フランスの福祉史」について発表し、討論を行った。いずれも会場は愛知県立大学サテライトキャンパス(名駅)で、名古屋近代イギリス研究会にも参加を呼びかけた。 イギリスでの史料調査を坂下史、高林陽展、椿達也が実施し、国際学会での発表を松波京子、菊池好行が行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本共同研究が解明を目指している「近代イギリスにおける科学の制度化と公共圏」について、昨年度の研究成果、特に化学史学会シンポジウムでの研究分担者4名による報告から、これまでの「科学の制度化」論では指摘されてこなかった重要な点が浮かび上がってきた。 坂下史の発表からは、地方で農産物の品評会などを開催して、農業の「近代化」=「科学振興」をはかった農業協会の活動にみられるように、統治層ジェントルマンの足元である農業でも「草の根啓蒙」が浸透し、19世紀イギリスで本格化する「科学の制度化」を下支えしたことがわかる。 この「科学の制度化」は多元的な展開の様相を示すが、すべてが民間団体によっていたわけではない。国家資金によって運営されていた科学機関があったことを見落としてはならない。それがグリニッジ天文台であった。石橋悠人によれば、この機関は海軍と密接な関係を持ち、ケンブリッジ大学から多数の人材を供給されていた。 国家機関さえ一つの要素と見なくてはならない多元的なイギリス科学においても、政府がその運営の前面に躍り出てくるのは、高林陽展によれば、第一次世界大戦時の総力戦体制の構築からであった。イギリス現代史の研究者はこの点にうすうす気づいていたように思われるが、イギリス科学の社会史の領域で明確に示されたことの意義は大きい。 「科学の制度化」論は大学などの研究機関、あるいは科学の大衆化に関わる組織に、いわば二元化されて理解されることが多い。こうした理解に警鐘を鳴らしているのが奥田伸子の発表である。現在までイギリス唯一の女性ノーベル賞受賞者ドロシー・ホジキンを取り上げたこの発表で強調されていたことは、女性の教育・研究にとって一番の障害は、高等教育機関ではなく、それ以前の中等教育機関の閉鎖性であった。 このように、昨年度の成果によって「科学の制度化」に対する理解が一段と進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も昨年度と同様に、本共同研究の成果公表の一つとして、研究分担者5名が化学史学会年会シンポジウム「近代イギリスにおける科学の制度化:専門分科と公共圏」で報告することになった。メインタイトルは昨年度と同じだが、観点を「専門分科と公共圏」に変えている。大野誠が趣旨説明を行った後、伊東剛史がロンドン動物園の母体である動物学協会を取り上げ、この学会での専門分科を明らかにする。菊池好行はロンドン化学会を取り上げ、専門分科が国際状況とどのように連関していたかについて検証する。川村範子は政府のなかに設立された「科学・工芸局」がどのような機能を果たしていたかを論じる。松波京子は1868年に制定された電信国有化法を取り上げて、議会討論に表れた公益概念について検討する。 ここにも表れているように、本研究グループ内における本年度の検討事項は、専門分科と公共圏の関係についてである。秋には、この点を含めて本研究課題に関わる海外の研究を整理するために、名古屋近代イギリス研究会にも参加を呼びかけて研究会を開催する。 年度末の3月25日・26日には、イギリスから2名の若手研究者、Dr. Sally FramptonとDr.Berris Charnleyを招聘してワークショップを開催する。この2名はともに、オクスフォード大学のPublic Scienceプロジェクトのメンバーでもある科学史研究者ある。本研究グループからも4名が英語で報告する。Public scienceや科学と公共圏の関係について集中的に討議することになろう。なお、最終年度(来年度)に研究成果を西洋史関係の学術集会でも行いたいので、現在発表先を検討中である。 海外調査には、伊東剛史、石橋悠人、菊池好行、奥田伸子が出かける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査を計画していた複数の研究分担者がそれぞれの事情で海外調査を次年度か最終年度に延期したり、今年度末に開催するワークショップに海外から2名の研究者を招聘するために、意図的に繰越のできる助成金を使わなかったからである。補助金の方は、研究分担者1名が勘違いにより1万数千円を返金することになったが、この例外を別にすれば、全額予定通りに執行している。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した助成金は、今年度末に開催するワークショップにイギリスから2名の研究者を招聘するため、あるいはそれぞれの事情で延期していた海外調査のために使う予定である。
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