研究課題/領域番号 |
26284100
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石川 日出志 明治大学, 文学部, 教授 (40159702)
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研究分担者 |
平川 南 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 名誉教授 (90156654)
佐藤 信 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (80132744)
平川 新 宮城学院女子大学, 学芸学部, 学長 (90142900)
七海 雅人 東北学院大学, 文学部, 教授 (00405888)
中野 泰 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (20323222)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 歴史学 / 考古学 / 民俗学 / 先史学 / 文化資源学 / 地域復興支援 |
研究実績の概要 |
本科研では,気仙地域がもつ歴史・文化の魅力を学術的に研究し、その基礎情報を関係自治体の文化財担当部局に提供して、今後の文化資源の保全と活用に資する条件を整えること、および研究成果の要点を市民に還元して、地域と生活文化の復興に資することを目的としている。その意味から、今年度は、①近世石碑調査と、②市民向け報告会開催が特筆される。 ①では、陸前高田市内に1685基所在する近世石碑の悉皆調査を進め、うち728基を詳細調査し、同市教育委員会が設置する文化財調査委員会に報告・情報提供した。②の市民向け報告会「歴史・考古・民俗学から気仙地域の魅力を語る」を同市立横田基幹集落センターで開催し、この種の科研事業としては前例のない、約170名の市民が聴講した。地域の歴史・文化の魅力を発信・活性化する本科研に対する市民と地域からの期待の大きさと責務の重さを痛感した。 以上2点が初年度もっとも重要な成果であるが、次のような調査・研究活動も行った。 ③小友地区で民俗学的調査を実施し、生業の特色と行屋の使われ方の相関、1933年三陸地震津波と1960年のチリ地震津波の前後で生業のあり方に変化があること、出稼ぎの卓越による女性のネットワークが強いこと、祭礼と集落間関係、などに関する知見を得た。④三陸における縄文時代の生業活動を知る要点となる貝塚遺跡調査データの集約、⑤三陸における古代の竪穴住居跡の集成、⑥古代東北における気仙地域の位置づけの検討、⑦中世城館群の地表調査と三日市城跡の縄張図作成、および中世気仙地域の景観復元に向けて板碑・塚の分布等の調査を行い、各調査データに基づく研究を進めた。 ただし、近世の気仙地域を知る上でもっとも重要な史料である吉田家文書については、所蔵館独自の事業となったため、デジタル撮影済データのみ整理・検討、目録作成、気仙郡と隣接地域で関連資料の所在調査と撮影を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記の(1)高く評価できる調査成果、(2)おおむね順調な調査成果、(3)当初計画より進展が遅いか変更を要した点の3点から「おおむね順調に進展」と自己評価する。 (1)高く評価できる調査成果: ①本科研の市民向け報告会に約170名もの参加者があり、市民から気仙地域の歴史・文化的魅力への共感が表明された。②陸前高田市内所在石碑の悉皆調査が、当初の計画以上に進捗した(前掲)。この調査成果を陸前高田市文化財調査委員会に報告し、被災石碑の保全と今後の指定に向けた基礎情報として活かされた。③小友地区で民俗学的調査を実施し、生業の特色と行屋の使われ方の相関、1933年三陸地震津波と1960年のチリ地震津波の前後で生業のあり方に変化があることなどに関する知見が得られた。 (2)おおむね順調な調査成果: ①陸前高田市内所在中世城館跡のうち主要城館跡の地表調査を行い、各城館の立地と縄張構造を詳細に把握した。本科研準備中に縄張図を作成した高田・二日市・米ケ崎の3城跡に続いて、三日市城跡の縄張図を作成した。また、二日市城跡の塚状遺構の測量図を作成した。②三陸の縄文時代貝塚遺跡の調査データ一覧を作成し、気仙地域の古代の竪穴建物(住居)跡の発掘調査事例の集成も行った。 (3)当初計画より進展が遅いか変更を要した点: ①中世城館跡の縄張図作成は、本科研スタート時点で下草が繁茂し、枯れる冬季まで待たざるを得なかったことと、地権者との調整から、1遺跡(三日市城跡)に留まった。ただし、すでに作成済みの3城館跡との比較検討の重要データとなった。②近世の気仙地域を知る文献史料としてもっとも重要な吉田家文書は、すでに写真撮影を行った分について史料目録を作成したが、所蔵者である東北歴史博物館が文化庁からの予算で独自に整理作業を進めることになったため、本科研での作業は計画変更を余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度調査の成果と課題を受けて、本年及び次年度の調査研究を次のように進める。 (1)考古学的調査: ①縄文時代貝塚および集落遺跡調査情報のデータベース化、②縄文時代の鯨骨製刀剣形品の集成・分析、③三陸における弥生時代遺跡の集成と分析・評価、④東北~道央の古代集落・貝塚遺跡の集成、の基礎調査を行う。これにより、海域と陸域が複合する高い生物生産量を有効活用した縄文時代から、稲作に不向きな自然的制約がある中で小集落が営まれる弥生時代、まったく姿が見えない古墳時代、そして律令国家の北方境界領域として再び活性化する古代までの歴史変遷を考察する。 (2)考古学的手法と歴史学の連接: 中世~近世前期の気仙地域の探求で、中世城館群と石造物、経塚の可能性が高い塚状遺構、中世遺物出土地が最も重要で、それぞれ悉皆調査を進める。これら考古学的調査に、断片的ながら存在する中世史料の調査と分析を加えて総合することにより、中世~近世初期の気仙・三陸の景観復元を進める。 (3)被災史料の保全と読解: 今回の大震災津波で被災した資史料のレスキューが各地で進められた。被災地の歴史的・文化的魅力を知る上で、資史料が重要な資源として活用されるからである。中心的役割を担った本研究分担者によりユネスコ学園関係文書の保全と分析を進める。戦後期の当地域におけるユネスコ運動や教育史を知る基礎となる。 (4)民俗学的調査: 初年度の小友地区に引き続いて横田地区で民俗調査を行い、生態的・経済的・歴史的環境の差異と民俗慣行・習俗との関連を読み解く。また、民俗調査の基礎資料となる各地区の民俗誌データの集約を図る。 これら各分野の調査研究をもとに気仙地域の歴史・文化的特色を描き、その基礎データを当地域の自治体に提供して今後の活用に資するとともに、研究成果の要点を当地域の魅力として市民に還元するべく報告会を毎年開催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「国内旅費」の繰越は、①中世城館跡の縄張図作成で、下草繁茂による現地調査不能期間が長く、また、一つの城館跡の地権者が複数にわたり、もっとも多い城館跡では26名の地権者からなる共有林に位置するなど、地権者との調整に手間取ったために、計画通りに作業が進められなかったことと、②研究分担者および連携研究者の職務変更(学長就任など)により、計画通りの現地調査実行に制約が生じたこと、による。「人件費・謝金」の繰越は「国内旅費」の繰越に関連し、予定していた現地での作業と図面作成が1遺跡にとどまったことによる。「その他」の繰越は、計画していた印刷物が史料所蔵者の許諾取得に時間を要したこと、また、現地調査の補足作業が発生したため、年度を越えての入稿となったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
「国内旅費」については、中世城館跡の地権者交渉を進めており、3城館について交渉がまとまり、5月からの調査が可能になっている。また、各研究分担者と年度初めに十分な連絡調整を図り、計画通りの調査ができる見込みである。「人件費・謝金」についても、調査を効率的に進めるために周辺自治体の文化財行政担当者を研究協力者として複数依頼するとともに、研究補助者も増員して期間内でのフィールド調査を進める。「その他」の印刷物については、すでに許諾の取得が済み、また、原稿が完成しており、入稿・印刷できる状況になった。
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