本研究の主眼は、東大寺に膨大に存在する未整理の文書聖教について、基礎的な調査を進めるとともに、その検討から、伝来過程や組織の内実を理解しようとするものである。あわせて、南都の寺社等に集積された文書聖教について、その把握につとめ、伝来状況等を明らかにすることを意図している。 4年目である平成29年度は、新修東大寺文書聖教の第85函~第87函の調査を実施した。その中には、江戸時代の東大寺の財政運用の実態を示す資料などが存在した。 また、新修東大寺文書聖教の一部である、中村純一寄贈文書について、明治維新期の日記の翻刻作業を進めている。興福寺の承仕から、維新期に春日社新神司になった中村宗円(雄也)が記したもので、明治4年分を翻刻した。明治初年の奈良・春日大社等の様子を詳しく知ることができる貴重な資料である。 さらに、東大寺中性院が所蔵する襖・屏風の下張り文書について、糊を剥がし調査する作業と、そこから見いだした文書の検討を、研究分担者の横内裕人が中心となって実施した。 加えて、中村純一寄贈文書と本来一連の資料で、現在も個人蔵で所蔵されているものについて、調査を実施している。本年度に調査したのは、江戸時代後期に作成された資料である。ただし、なかには中世資料の写しも存在した。その中世資料については、さらなる検討を加え、公表に向けて準備を進めている。 その他、奈良の旧家の個人蔵の歴史資料について、研究協力者の協力の下で、調査を行った。
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