土器製作者個人の多角的高確度同定法の精緻化と方法の簡易化について、土器形態の計測や微細痕跡の精細な形状取得(主にSfM-MVS)等をさらに実施し、理想的な条件の資料だけでなく実資料に即し制約のあるもので検討した。以前から懸案であった回転施文について、縄文時代早期の押型文土器で有効に3Dマッチングができ、思いがけない身体技法の復元に展開するなど大きな成果を得た。また、個人同定可能な資料はもとより、本研究の視点と方法を幅広く応用しさらなる展開の可能性を探索した。今年度も特殊器台に多角的アプローチを適用し、類似性の判断、製作者の身体技法や製作姿勢、動作連鎖、生産-流通システム等の諸問題の解決に役立つ、昨年度を上回る成果を得た。同様に縄文時代草創期の石製品の解釈など、多岐にわたる成果を得ており、これらは将来的展開の基盤となろう。なお、これまでに収集した現代土器に関するデータの分析やその可能性についても考察した。注目されている三次元計測について、その精度等も本研究の観点から考察し提言を行った。 引き続き方法の普及と情報収集にも力を入れた。今年度も調査・実験等の折に見てもらい、質問等に積極的に応じた。遺物の三次元データの幾何学的形態測定への拡張など新たな分析法や、CGやVRの可能性についても専門家を含めて議論し、成果を得るとともに情報やデータの提供も行った。ひらめき☆ときめきサイエンスや公開研究会等への協力も積極的に行った。 最終年度にあたり、これまでのまとめと展開について学会等で発表し議論するとともに、本研究に関連する講演なども行った。本研究の開始時やその前身となった研究課題の頃と比べ、学界で土器製作者「個人」をはじめとする用語や、本研究で開発・採用した方法の適用例が増加し、詳細観察等の諸視点などを含めて、直接・間接に影響を与えているとみられる。こうした点も大きな成果と考える。
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