研究課題/領域番号 |
26284126
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研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
狭川 真一 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (30321946)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 墳墓 / 仏塔 / 納骨 / 霊場 / 墓の破壊 / 中世墓の終焉 |
研究実績の概要 |
中世の墳墓遺跡および葬送墓制について、3つのテーマを設定し、研究を進展させる形で進めた。以下、テーマ別に成果の概要を記述する。 【仏塔と墓の関係】 福島県いわき市金光寺所蔵木製宝篋印塔の年輪年代測定とそれに伴うAMS法による年代測定を実施した。二つの自然科学分析の結果は、宝篋印塔に記載される銘文(文保二年/1318)に矛盾せず、且つ近い年代が得られた。自然科学分野間でのデータ比較だけでなく、資料自体に刻まれた銘文との比較研究が行われ、整合性が得られた成果は大きい。また、本年度中に中世武士の墓の成立に関わる資料として、埼玉県飯能市智観寺板碑と熊本県玉名市宇佐氏墓所五輪塔の調査を実施した。両者とも先代の遺骨を改葬し、墓所を整備したことが銘文から知られる貴重な事例である。 【納骨信仰の研究】 平成29年度に実施する高野山霊宝館での納骨信仰に関する展示事業に協力し、展示の事前準備として金銅製宝篋印塔(納骨容器として利用)の詳細調査を実施した。その成果の一部を展示に反映させ、さらに奥之院の納骨全般について、解説冊子やパネル原稿などを執筆した(展示は平成29年4月15日~7月9日)。 【中世墓の破壊】 破壊された墓石や石塔の転用事例について行った2度の研究会(平成26・27年度)で、一定の研究の方向性が見えたので、その後は中世墓の終焉に関する研究へと発展させた。その目的を地域ごとに確認するため、4月に東京で関東地方を題材に、1月に滋賀県で近畿と東海地方を題材にして研究会を実施した。関東では板碑の終焉に視点を絞り、小型板碑の出現などについて地域制を明らかにした。東海・近畿では一石五輪塔に焦点を当てて、形態的特徴の整理とその分布の有り方、盛衰の状況などを整理した。両研究会ともに資料集を印刷して研究者等に配布した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【仏塔と墓の関係】 一昨年度に新発見となった木製宝篋印塔に関する調査を継続した。本年度には自然科学的な成果も得られ、資料の存在する地理的、歴史的背景についても調査を開始した。 【納骨信仰の研究】 高野山奥之院の調査成果は概ね整理が進み、その成果は高野山霊宝館との協力事業として展覧会の開催へと発展させることができた。 【中世墓の破壊】 本年度は当該テーマの発展研究として中世墓の終焉を課題とし、2回の研究会を実施し、地域における実態を把握することに努め、それぞれの地域で中世墓の終焉を特徴的に示す板碑や一石五輪塔という石造物に着目して成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
【仏塔と墓の関係】 木製宝篋印塔に関連して、資料が保管される寺院の裏山にある横穴墓の調査を実施する。また、木製五輪塔の唯一例が鎌倉にあり、それを調査する。これらを踏まえて、平成28年度の自然科学的な成果を含めて、当該仏塔の報告書を刊行したいと考えている。また、上記の横穴墓と仏塔との関係を調査すべく、鎌倉のやぐらの調査研究を実施する。可能な範囲で研究会へと発展させたいと考えている。 【納骨信仰の研究】 平成28年度に見学する機会があった大阪府河内長野市金剛寺所蔵の木製納骨五輪塔の詳細調査を実施する。資料を当研究所に搬入し、分類と計測を行い、未知の納骨信仰寺院について研究を行う。また、高野山明王院に所在する一石五輪塔は1000基以上存在するだけでなく、中世の一石五輪塔としては最末期に位置づけられる資料群であり、その詳細調査を実施する。あわせて山内寺院の位牌資料についても可能な範囲で調査を行い、中世末から近世にかけて変化する高野山の納骨信仰について研究を進展させる。 【中世墓の破壊】 平成28年の研究姿勢を継続して、四国と九州、北陸の3か所で研究会の準備会議と現地調査を開催する。四国は香川県、九州は大分県、北陸は新潟県で予定している。この3地点で概ね地域における様相把握は終了するが、欠落している東北などの様相については随時調査を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
事業としてはほぼ計画どおりに執行したが、研究会資料集の入札差金や研究会発表者に謝金辞退者が出たことなどで若干の未使用金が発生した。一つの研究ができるほどの金額でもなかったことから無理に使用することは避け、翌年度に有効利用することを考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
金剛寺所蔵木製納骨五輪塔の研究について当初は現地調査を予定していたが、当方およびお寺様のご希望から研究所に搬入して調査を行うこととなり、そのための経費(移動費、研究協力者旅費、梱包材料費等)として4月中に使用する。
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