中世の墳墓遺跡及び葬送墓制について3つのテーマを設定し、研究を進展させる形で進めた。以下、テーマ別に概要を記述する。 【仏塔と墓の関係】 福島県いわき市金光寺で確認した木製宝篋印塔の調査報告書を作成し、その内容について研究報告を行った。鎌倉時代後期において木製仏塔が墳墓の標識として屋外に造営されていた事実を遺物で証明するもので、今後の調査研究に木造仏塔の視点を加えるよう注意喚起を行った。 【納骨信仰の研究】 河内長野市金剛寺所蔵の木製小五輪塔の調査報告書を刊行し、あわせて研究発表を行った。小塔の内部に火葬骨片を納めたもので、元興寺の随時で多数の納骨とは異なり、おそらく同時で一人の方の遺骨の一部を粉砕して、一括して埋納したものであろう。高僧の遺骨信仰などに関係するものの可能性を考えた。また、高野山における納骨信仰のシンボル的な一石五輪塔のうち、形態が著しく退化した資料を明王院で確認し調査を進めていた。その報告書を刊行し、研究発表を行った。当該資料については年代の決め手を欠いているが、おそらく17世紀にかかるものとみられ、高野山の子院における納骨信仰について言及するに至った。 【中世墓の破壊】 研究開始期の成果から中世墓の終焉期を探るというテーマに読み替えて実施し、各地を巡回して研究会を開催した最後の地域として北陸(福井県小浜市)で研究会を開催した。また、第13回中世葬送墓制研究会と題して、これまでの研究会をまとめる形で総括研究会を奈良(元興寺文化財研究所)で実施した。それぞれの研究会資料集を冊子体で刊行した。いずれも600部程度印刷し各地の文化財関係機関およびこれまでの研究協力者に配布し、研究成果の周知化を図った。 以上が全体の概要であるが、新発見資料も複数あり当初に予定した以上の成果をあげることができた。
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