研究課題/領域番号 |
26284127
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研究機関 | 奈良県立橿原考古学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 裕明 奈良県立橿原考古学研究所, 企画部企画課, 主任研究員 (90260372)
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研究分担者 |
青柳 泰介 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 総括研究員 (60270774)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古墳時代 / 木材利用 / 王権中枢 / 木製樹物 / コウヤマキ / 木製残材 / 木材消費地 / 木材生産地 |
研究実績の概要 |
古墳時代王権中枢の木材生産から消費の実態を明らかにするため、平成27度は主に下記の調査を実施した。 ●三次元レーザー計測による古墳出土コウヤマキ製木製樹物の木取りの資料化 兵庫県立考古博物館所蔵の池田古墳出土笠形木製品、堺市教育委員会所蔵の土師ニサンザイ古墳出土笠形木製品、高取町教育委員会所蔵の市尾墓山古墳出土笠形・鳥形木製品を調査対象とした。事前の熟覧調査で、形態の記録とともに木口面側の年輪界を観察し木取りを把握し、その後三次元レーザー計測を実施した。その結果、年輪界が明瞭な部分では精度の高い年輪曲線の図化が達成され、この成果をもとに5世紀代の巨大古墳・大型古墳と6世紀前半代の大型古墳に供給されたコウヤマキ原木丸太材の大きさ、木取り等を検討した。古墳時代中期前半の大径木利用から、中期中葉には中径木の利用がはじまり、後期前半には中・小径木利用のみになり、そのなかで墳丘規模に応じて、大型古墳にはより多量により良質な材が供給されている実態を確認した。 ●製材・加工時残材のデーターベース構築 木製品製作遺跡と考えられる宇陀市谷遺跡出土の加工屑の木端と、原材伐採・製材遺跡と考えられる奈良市田原地区の製材時に除去された節について、形態の記録、樹種同定を実施した。谷遺跡については、針葉樹とみられる木端を選別し、樹種同定を行ったところ、約45%の比率でヒノキ科が、次いで約33%の比率でコウヤマキが存在することが明らかとなった。これは昨年度調査でのヒノキ科、コウヤマキの出現率とほぼ同じ数字であり、宇陀地域が盆地内へ供給されるヒノキ・コウヤマキ製品の製作地の一つである可能性を補強する結果となった。田原地区出土木製残材については、節の全長と径の計測から、最も数多く集中する節の大きさが調査地区あるいは時期ごとに異同があるかどうかの検討、節の大きさから原材の直径を推定するなどの分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三次元レーザー計測による古墳出土コウヤマキ製木製樹物(笠形木製品)の木取りの資料化では、巨大古墳・大型古墳出土例については古墳時代中期~後期の各時期のものの資料化を概ね達成できた。その内容の検討により、研究実績に記したように古墳時代中期段階までのコウヤマキ大径木の大量消費によって、後期に入ると中小径木利用が主体となり、さらにそのなかでより良質の材は大規模古墳に、質の劣る材は中小規模古墳に供給されていた実態が明らかになりつつある。その成果の一部は平成27年度に論文として公表した。 さらに当初計画に追加する形で、奈良盆地における古墳時代のコウヤマキをはじめとする針葉樹の消費状況との比較で、大津市埋蔵文化財調査センターが調査した南滋賀遺跡、滋賀里遺跡の6世紀後半~7世紀前半の大壁建物に遺存していたコウヤマキ・ヒノキ製柱材の調査も実施できた。大壁建物の柱材の設置位置によって材の形状や樹種に違いがあるなどの成果があった。 木材生産遺跡の製材・加工時残材のデーターベース構築では、奈良盆地東山間部の木製品出土遺跡の針葉樹残材の形態記録と樹種同定がほぼ計画通り進んでおり、コウヤマキをはじめとする針葉樹製品の製作が山間部で行われ、盆地へ供給されていた状況が把握できつつある。また、製材時の原木の大きさを残材(節)から復元する作業を進めており、製材の工程や時期によってその大きさが異なる可能性を議論できる成果を得ている。これについても、H28年度に学会発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
三次元レーザー計測による古墳出土コウヤマキ製木製樹物の木取りの資料化では、これまで5世紀代の巨大古墳・大型古墳と6世紀前半代の大型古墳出土の笠形木製品を主に対象としてきた。今後は、中小規模古墳から出土した笠形木製品の木取りの資料化を達成するため、主に奈良盆地内の5世紀後半~6世紀前半の資料を対象として計測作業を実施する。また、このなかの樹種未同定資料については、コウヤマキであることを確認するために同定作業を行う。 製材・加工時残材のデーターベース構築では、引き続き宇陀市谷遺跡・奈良市田原地区出土品を対象とする。合わせて古代の近畿地方で大規模木材生産地「杣」が置かれた可能性がある地域の現地踏査およびその出土木製品の資料調査を行い、谷遺跡や田原地区との地形的な面と出土木製品の様相の比較を行う。その上で生産地から消費地への木材の流通過程に関する考察を進展させる。 今年度からの取り組みとして、海外の古代木材資料のデーター化を進める。その皮切りに、隣国の韓国・中国の関連資料の収集を行う。韓国では、釜山博物館、国立光州博物館において調査を実施する計画である。釜山広域市では、三国時代の古村里遺跡をはじめとして、木器生産・消費遺跡の発掘調査が実施されており、本研究との比較において良好な資料となる。また青銅器時代の木器生産・消費遺跡として著名な光州広域市新昌洞遺跡でも現在進行形で調査が進んでおり、韓国での最新の木器研究の情報が得られるであろう。中国では、漢代の墳墓において良好に遺存する木槨・棺材を多数調査している機関の一つに寧夏文物考古研究所がある。現在当研究所とは研究交流の協定を結んでおり、当該木製品調査の受入も可能な状況である。日中古代の木材利用の比較研究において現状では最適な資料であり、現地において漢代木槨・棺材の内容確認とともに木取り等の観察を含めた調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の科研費執行計画のなかで、その他の委託業務(三次元レーザー計測業務、樹種同定業務)にあてていた予算の端数としての執行残と、物品費のなかで購入予定であった消耗品(プレパラートや薬品など)が、今年度の調査・分析においては既存のもので間に合い、購入不要となったための執行残である。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度計画している木製残材のデーターベース構築作業において、委託業務での樹種同定とともに、研究協力者による「節」などの樹種同定作業をこれまでより数多く実施する予定にしており、物品費として木材切片サンプリングに必要な消耗品の購入にあてる。
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