研究課題/領域番号 |
26284137
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
飯嶋 秀治 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (60452728)
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研究分担者 |
北川 由紀彦 放送大学, 教養学部, 准教授 (00601840)
間宮 郁子 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (30455381)
増田 健太郎 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (70389229)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイノリティー / 児童福祉施設 / 通所授産施設 / 自立支援施設 / 臨床心理学 / 施設間移行 / 生存経路 / 多様化 |
研究実績の概要 |
平成26年度の1年目は、文献研究に絞りこみ、(A)民俗学を中心とする母子関係の変容史、(B)諸施設の制度史、(C)入所者人口推移の統計的把握、(D)文献研究上の課題を整理し、特に近代国家化と戦後の変容期において「精神病」「野宿者」等の概念の系譜の相関関係を精査し、国際比較のための軸を形成する予定であった。 この計画に沿い、9月30日放送大学にて第1回目の研究会を開催した。ただし1回目は事前のメール会議でメンバー内での意識を共有したほうが良いとの考えがあったため招聘講師は招かず、非公開の研究会「科学研究費基盤B施設間移行と生存経路多様化の基礎的研究オリエンテーション」とし、以下のような発表をおこなった。飯嶋秀治「科学研究費基盤B施設間移行と生存経路多様化の基礎的研究オリエンテーション」、間宮郁子「精神病院の制度史と『精神病』概念の系譜」、北川由紀彦「居所のない人々の収容施設と<ホームレス>の系譜―東京を中心に」、増田健太郎「プロフィール紹介」。この結果、メンバーが網羅している「施設」だけでは視野が狭いこと、またいずれの研究でも施設職員の実態把握が薄いことが課題として浮上したた。 こうして3月9日・10日の第2回研究会では、HPを構築し周知したうえで、国立障害者リハビリテーションセンターにて、以下のような発表をおこなった。飯嶋秀治「民俗社会の変容と施設―第1回研究会の課題から」、ランジャナ・ムコパディヤーヤ「仏教福祉と社会参加」。飯嶋秀治「児童福祉施設の定量的把握」、間宮郁子「精神病院等医療機関、福祉施設の職員について」、北川由紀彦「生活困窮者施設に関する量的把握」、増田健太郎「教員の臨床心理学的研究と実践」。この結果、宗教と福祉の関係研究が手薄であること、また個々の施設利用者の社会階層が異なることが見出された。 以上の課題を整理し、次年度以降はこれら課題を招聘講師等で補う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は初回と2回目に各2名の招聘講師を招く予定であったが、メンバー間の意識を共有するために、初回の招聘講師は見送った。このため、招聘講師の計画はやや遅れたが、これは積極的理由があるため、遅延とはみなしていない。実際、2回の研究会で、それ以外の当初の目標には達成した。 ただし、研究代表者の実父が他界するというやむおえない事情で海外の連携研究者との海外文献調査は見送り、次年度以降に回すこととした。 それ以外のDropboxでの情報共有、HP構築、研究者ネットワークの構築は順調に進んでおり、生存経路を多様化するうえでの研究者との打ち合わせも進み、研究者ネットワークの構築途上で知己となった研究者から他種の施設を紹介され、次回の開催場所とするなどの予想以上の進展もあった。特に上述の施設職員の研究者探しには難航したため、社会学者、社会福祉学者、施設実務者と辿る形で、問題の共有をしてもらえる研究者ネットワークが自然と構築されていった。第2回目以降の研究会の告知はHP以外にこうした研究者ネットワークに送信することで、ネットワークを課題の共同体にしつつある。 このためプラスマイナスでほぼ順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は1年目の研究会で出てきた課題を整理しつつ、各研究者のフィールドワークに基づき、諸施設を10 年程度の時間幅で見て、(A)現状把握、(B)個々のライフコース、(C)入所者-職員の相互行為、(D)施設間重複・再生産構造、を検討し、それぞれの施設の地域的および歴史的文脈を精査する予定である。 1年目の課題として大きくクローズアップされてきたのは、どの施設でも施設職員の実態把握が遅れていることであり、このため約150年の施設の歴史をもつ瀧乃川学園での施設職員の運用実態を把握し、この視点をそれぞれの今後の施設研究に無理なく繰り込むことにしたい。またメンバー内の非公開研究会では、それぞれのライフコースに基づいた事例を発表しあうことで、現実にどのような施設間移行があったのかを把握する。当初、本研究会では施設間移行を問題視してきていたが、諸施設の現実を見ると、施設外での生活が困難と見受けられるケースもあり、施設研究でよくある脱施設化という発想の一面性を内省した。問題は、現実のケースに則しながら、施設ケア、施設外ケア等の生存経路を多様化してゆくことである。 また今年度の研究にもとづき、来年度以降の施設内の実践を行うため、具体案を大学内の研究倫理委員会に通す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1つは年度末に行った研究会のテープ起こしが年度をまたいだためでこれが122709円の予定である。またいま1つは初回に招聘する予定であった講師謝金と交通費が2回目以降に順延されたためで、これが概算85000円である。このため、計画未消化で実質繰り越しになったのは588705円分であるが、これは今年度の実績評価にも書いたように、研究代表者の実父が6月に他界したため、海外でのBarry MacDonaldとのアメリカおよびオーストラリアでの文献調査を順延したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
テープ起こしは既に発注済みなので5月に支払予定。また招聘講師に関しては機械的に2名づつ招くのではなく、毎度の研究会を終えた後の課題に基づいて招聘することとなったため、今後も半期づつ順延予定。 問題はBarry MacDonaldとの文献調査であるが、これについて、アメリカで行う予定であったサンディエゴ州立大学での資料は、既にサーヴェイを行ったオーストラリアの研究者John Mortonより連絡があり、サンディエゴ校に残されたアーカイヴは段ボール箱2箱分しかなく、その主要なものはAIATSISにコピー保存しておいた、との連絡があった。このため、まずは研究代表者自身がオーストラリア文献調査を行い、その質から判断して、アメリカ文献研究にするか、それともGeza Roheimがもともと所属していたブタペシュト大学でのアーカイヴ調査に充てるを判断することとした。
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