29年度は研究成果を総括する最終年度であった。研究代表者高橋と研究分担者田口は、研究成果に関する討議を綿密に行い、本研究課題が追及するところの、自然環境・野生生物・天然資源の保全の観点からから、私的所有制度の考察を行い、成果発表に務めた。 そのため、高橋は連携研究者上田剛平らと協力し、数年来の課題であった狩猟者アンケートを分析する論考を完成させ、学会誌に受理された。同論考は、2万2千人以上のアンケート結果から、狩猟者の意識、行動、権利意識、土地所有権への認識等、興味深いデータが多く含まれている。そしてこれまでの成果を踏まえて、民主主義科学者協会法律部会の全体シンポジウムにて、総括的な発表を行った。 田口は、熊を軸に、野生生物と地域社会制度の相克を単行本『クマ問題を考えるー野生動物生息域拡大期のリテラシー』として上梓し、大きな反響を得た。熊問題の多発化は、熊の生息範囲の拡大だけではなく、人間社会側の変化も大きく、今後の人と熊の良い関係を構築するためには「狩猟の公共性」を正しく認識しなければならないこと等を力説した。「狩猟の公共性」は、前出の上田、高橋らによるアンケート調査からも、狩猟者の出猟動機に強い影響があったことが確認された。 このように、本年度は最終年度として成果とりまとめに成果を上げたが、本研究課題の研究蓄積を、次の研究課題に承継されることにも留意した。幸い、高橋を研究代表者、田口を研究分担者とした新たな科研研究課題、「猟漁五部作ー狩猟・漁撈の諸要素に着目した野生動物法の各論構築」が29年度より採択され、本科研の成果の発展的展開に着手したところである。
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