研究課題/領域番号 |
26285029
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研究機関 | 新潟県立大学 |
研究代表者 |
猪口 孝 新潟県立大学, 公私立大学の部局等, その他 (30053698)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 代表制民主主義 / 直接民主主義 / 共同体制民主主義 / 手続き的民主主義 / 熟慮型民主主義 / 監視型民主主義 / 地球市民制民主主義 / 日本市民の不満と不安 |
研究実績の概要 |
古代ギリシャの直接民主主義を起源として、近代欧州の(a)代表制民主主義でほぼ完成した。この代表制民主主義は様々な欠陥を補完・補充・代替えするものが提案されてきた。(b)直接民主主義(Budge),(c)共同体制民主主義(Putnam),(d)手続き的民主主義(Rose),(e)監視制民主主義(Keane),(f)地球市民制民主主義(Held)などである。本研究目的は(1)各主要テクストの鍵概念の内容分析と市民の鍵質問に応える意見調査分析を行い、(2)鍵概念と鍵質問を手掛かりにして市民の選好の分布を浮き立たせ、民主主義の今日的状況を理論的実証的に分析する事である。
民主主義の起源と展開についての議論を概念的に綿密に整理した後、それぞれの民主主義の流れに沿った著作の内容分析と市民の世論調査を使って、著者らの考えと現代日本社会で市民がどのように民主主義のいくつかの流れについて感じているかを分析する。著作の内容分析は鍵概念の頻度分析のみならず、鍵概念の論理的繋がりのテクスト・クリティーク・言語分析を結合した方法を採用する。市民の世論調査は民主主義のそれぞれの流れに対する選好の分布と市民の属性別・意見別をいれた多変量分析(因子分析・ロジット回帰分析など)を行う。複数の方法を使い、21世紀初頭日本社会でどの流れが民主主義についても強くなっているか、弱くなっているかをみることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
代表制民主主義についての不満・不安を反映して、その欠点をできるだけ少なくする為の形容詞のついた代表制民主主義が提唱されてきた。そのうちから、6個を選び、それが浮かび上がってきた文脈をよく認識しながら、不満・不安のどの側面に焦点をあてたものかを各6個について2個の命題として代表させたものを予備的な世論調査で実証データを確保し、その分析を行った。 熟慮型民主主義、直接民主主義、そして監視型民主主義が高い賛成を得ている。しかし、同時に好まれるタイプの民主主義自体がそれを支える社会的な基盤が弱いことも指摘されなければならない。たとえば、熟慮型民主主義に賛成が多いといっても、そういう人に限って高所得、高地位の方が多いから実行はそう簡単ではない。直接民主主義も賛成が多いが、それを支える社会的基盤が弱い。近所付き合いはそもそも稀なことに変貌している。監視型民主主義自体、それを可能にするような強いコミョトメントは近所でも職場でも弱い。 当初は代表制民主主義についての不満と6個の代表制民主主義に変わる民主主義についての不安をどのように世論調査に結合できるかに少し手こずったが、結果として順調になされ、二つのことが達成された。第一は、上記のラインで世論調査の質問がつくられ、限定的であるが、パイロット調査がなされた。第二に、代表制民主主義についての不満とそれに代わる6個の民主主義についての不安をどのように世論調査の質問とするかについて、猪口孝「グローバル化時代の民主主義」として岡沢憲芙編『比較政治学のフロンティア』ミネルヴァ書房、2015年3月刊行に発表した。さらに世論調査のデータの分析をさらに進展し、猪口孝「グローバル化時代の民主主義世論調査:概念的枠組と予備的分析」として2014年10月に日本政治学会年次研究大会で報告され、有益な討論がなされた。現在は改定版を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
主要な仕事は(1)一般市民を対象とした世論調査と(2)日本の学者を対象としたエキスパート・サーベイである。一般市民の世論調査は予算の許す限りで、大きなサンプルにし、同時に質問も予算の許すかぎりで大きな数にする。データを分析するにあたって、サンプルと質問数が大きくないと、統計的に意味あることにならないことになるので、現在、世論調査会社と具体的に折衝しているところである。
一般市民と学者の相同と相違については、民主主義という抽象的な概念を扱う時には注意しなければならないことである。とりわけ、一般市民と学者の間で、知識の程度が重要になるが、昨年度の予備的世論調査の結果からみると、それほど大きな違いがなく、結果を要約すると、①代表制民主主義についての不満はかなり高い、②代表制民主主義に代わる6個の民主主義についての不安は非常に高い。③しかも、3個の民主主義、熟慮型民主主義、直接民主主義、監視型民主主義は賛成が大きいが、それをささえるだろう社会的基盤をみると、それほど強くはない。 このようなことに注意を払い、世論調査実施とデータ分析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世論調査(オムニバス・サーベイ、エキスパート・サーベイ)に使用するため
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次年度使用額の使用計画 |
(1)15~79歳男女個人1200人の一般市民を対象とするオムニバス・サーベイと有識者(研究者)を対象とするエキスパート・サーベイを実施予定。
鍵質問自体は数個の質問であるが、市民の属性や意見についての質問を多く入れないと、因子分析やロジット回帰分析が実施できるためには、サンプル・サイズのある程度大きいことと質問表がある程度大きいことが肝心である。これらの問題については実務的に予算額が許すかぎりのサンプル・サイズと質問表を設置することになる。現在、世論調査会社と具体的に折衝しているところある。
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