研究課題/領域番号 |
26285033
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
廣瀬 克哉 法政大学, 法学部, 教授 (90183920)
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研究分担者 |
細井 保 法政大学, 法学部, 教授 (40440094)
西田 幸介 法政大学, 法学部, 教授 (90368390)
土山 希美枝 龍谷大学, 政策学部, 教授 (00340498)
長野 基 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (50367140)
野口 暢子 長野県短期大学, 多文化コミュニケーション学科, 助教 (00583296)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地方自治 / 政治学 / 政策研究 / 議会政治 / 議会改革 / 代表制民主主義 |
研究実績の概要 |
年度当初の計画に沿って、①全国の自治体議会を対象とする議会運営実態調査、②先進自治体への訪問調査、③研究会における理論的検討を実施した。 ①については、まず2014年度に回収した調査票の分析を行った。その結果は2015年7月に実施したシンポジウムで、研究分担者の長野より報告した。また、2015年10月に刊行された『議会改革白書2015』に個別の自治体からの回答をすべて収録するとともに、集計と分析を掲載した。2015年度調査も、前年同様に2016年1月に全国の全自治体に調査票を発送した。回答がweb入力フォームに直接入力された自治体(約半数)について先行して集計を行い、2016年3月27日に開催したフォーラムにおいて分析速報として研究分担者の長野より発表を行った。 ②としては、昨年度訪問することができなかった会津若松市議会で市民との意見交換会を傍聴するとともに、意見交換会を起点とする政策形成サイクルの運用実態についてヒアリングを行った。また、永平寺町議会の報告会傍聴と議員、町長へのヒアリングを行った。さらに、総合計画にもとづく体系的な行政評価を継続して実施している合志市議会への訪問調査を行った。東村山市議会では、議会基本条例制定の過程と、条例制定後の議会内規則等の体系的な見直しの実施について聴き取り調査を行った。これらの調査結果の概要については『議会改革白書2015』に報告として発表した。 ③研究分担者、研究協力者による7回の研究会を行い、公開フォーラムを7月と3月に実施した。研究会では①、②関連作業の他、外部講師を招き専門的知見の提供を受けるなどし、実態把握と外国事例との比較などを通して、現在の日本の自治体議会の改革の特徴を整理するとともに、議会制度の歴史的検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先進自治体への訪問調査による議会改革の実態把握と、その取組内容の制度面、機能面での整理がまず順調に進展している。 昨年度の北海道栗山町議会に続き、会津若松市議会の訪問調査では、同議会が政策形成サイクルの起点として位置付けている市民との意見交換会を傍聴するとともに、議会内で政策討論会を担っているキーパーソンからの聴き取り調査を行うことができた。また、小規模自治体の議会として住民との身近な距離を活かした対話の場を設定できていると評されている永平寺町議会では、議会報告会の傍聴や議長以下の議員からの聴き取りに加え、二元代表制のもう一方であり、また、自身以前には議員、議長経験者でもある町長から、現下の議会改革に対する評価を聴き取ることができた。議会改革先進自治体の一部では、市民との対話に加え、議会による行政評価活動の活性化が進められている。体系的な評価活動で知られる熊本県合志市議会では、評価活動を中心的に担っている議員からの聴き取りを行っている。 議会運営実態調査については、議会基本条例制定が700自治体を超えたことを確認するとともに、条例の見直しが既にある程度進みつつある一方で、条例の実施状況についての自己点検・評価を実施している議会がまだ少数にとどまっているものの、徐々に本格的な議会基本条例の見直し作業が取り組まれつつあることを確認できた。先行事例として調査対象とすべき議会を絞り込むことができた。 理論的、歴史的検討としては、最近発表されはじめた、代表制民主主義論や熟議民主主義論からの議会論の動向について整理が徐々に進んだ段階にある。その知見を、実態調査班の成果とつきあわせて行くことが今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
日本の自治体議会改革の実態把握については、引き続き先進自治体への訪問調査を行っていく。議会基本条例の本格的な点検と見直しの作業が一部の議会で始まっているので、議会運営実態調査で把握できた自治体を選定し、議会基本条例の見直し作業の実態について把握したい。米国の地方議会への訪問調査については、専門家のアドバイスによって調査の論点を再構成しつつあるところだが、早期にそれを完了させた上で、調査を実施する。 自治体議会運営実態調査については、2015年調査の分析と、2016年調査を実施する。近年災害時の議会の機能と役割について、計画や行動準則を策定する議会が登場しはじめているが、平成28年熊本地震の発災を契機に、さらにその動きに弾みがつくことが予想される。2016年中に議会で発生した新しい動向をいち早く把握し、訪問調査先を発見することがこの調査の目的でもあるので、その点でも有用な知見が得られるものと期している。なお、2015年に訪問調査を行った熊本県合志市が今回の震災では被災地となったこともあり、落ち着いた段階で改めて発災時の実情についても調査を行いたい。 議会制度の歴史的検討として、会議規則の検討については、2015年は現在の見直し作業の実態把握の段階に止まったので、歴史的な視座の下でその動向を位置付けられるような文献研究を進める。地方自治制度史の視点からは、議決事件のあり方が重要な鍵であることを見出す段階に至っているので、伝統的な地域自治組織が今日まで継続しつつ、現代の公的制度の下での議会、行政と併存している地域の研究とも重ねながら制度改革の歴史的な位置づけを明らかにする。 代表制民主主義論と、熟議民主主義論の総合的な検討はまだ初期段階にあるが、議会自体が市民参加型の取組を展開しつつある現状を理論的に位置付け得る見取り図を提示する段階まで進め、本研究の目的を達成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は以下の2点である。まず、自治体議会へのアンケート調査において、調査票の回収に相当の時間を要し、データの入力、クリーニング、分析などの作業が調査実施年度の翌年度にまたがらざるを得ないことである。 次に、米国の強市長制度化の自治体議会への訪問調査を予定していたが、事前準備の過程で米国の地方議会制度の専門家からアドバイスを受け、調査対象、着目すべきポイントについて練り直す必要が確認されたことから、年度後半に予定していた調査を2016年度に延期することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
自治体議会運営実態調査については、2016年度に15年調査のデータの入力、クリーニング、分析と、16年調査の全作業を合わせて行う。米国の強市長制採用自治体における自治体議会の制度、運用実態、市長と議会の関係などについて訪問調査を行い、文献や議事録等の調査では把握することが困難な動態的把握を行う。国内の議会調査としては、議会基本条例の見直し作業に着手している議会を選択して、運用実態の点検・評価状況、見直し内容、見直し過程での市民とのコミュニケーションが議会基本条例制定時とどのように変化したかなどを把握する。 7月、10月、3月の3回にわたって公開のフォーラムを開催し、本プロジェクトの研究成果を発表し、聴衆からのフィードバックを受けて研究の完成度向上を図る。
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