研究課題/領域番号 |
26285033
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
廣瀬 克哉 法政大学, 法学部, 教授 (90183920)
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研究分担者 |
細井 保 法政大学, 法学部, 教授 (40440094)
西田 幸介 法政大学, 法学部, 教授 (90368390)
土山 希美枝 龍谷大学, 政策学部, 教授 (00340498)
長野 基 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (50367140)
野口 暢子 長野県短期大学, 多文化コミュニケーション学科, 助教 (00583296)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自治体議会 / 地方自治 / 議会政治 / 政治理論 / 市民参加 |
研究実績の概要 |
計画最終年度となる平成28年度においては,「定点観測」である自治体議会運営実態調査を継続しつつ,これまでに得られた研究成果を各メンバーがとりまとめ,論文の発表や,学会報告などを行い,プロジェクトの成果の出版計画の検討を進め,2018年3月刊行予定が固まった。 調査については,廣瀬他編『議会改革白書2016年版(以下『白書』)』(pp.130 - 211,2016年10月、生活社)に発表した。平成28年度に実施した調査については,3月議会終了後に督促を行って回答率を上げることが,研究成果の充実のために不可欠と判断し,期間延長をお願いし承認を得た。 議会基本条例については,廣瀬克哉「議会基本条例で進んだ改革、これからの課題」(『白書』,pp.8-13),「松下圭一の「基本条例」論と議会基本条例10年の展開」(『法学志林』第114巻第3号,pp.115-141),長野基「条文分析 2015年制定の議会基本条例に見る議会改革の動向」(『白書』, pp.95-124),「議会基本条例の制定効果と今後の議会改革の方向性」『議員NAVI』2017年1月13日号(第一法規)などの論考を公表することができた。議会と市民の直接対話の展開については,土山希美枝「議論の「機会」と「争点」のデザインを考える」(『白書』pp.87-90),野口暢子「深化する「議会への住民参加」」(『白書』pp.91-94)として発表した。議会の法的な自治組織権については西田幸介「地方議会の附属機関と自治組織権」(『白書』pp.78-81)を発表した。議会の政策立案,評価等に関する研究成果を長野基が一連の論考と日本地方自治学会等で発表した。 研究成果の発表と議会改革当事者との意見交換の場として,法政大学ボアソナード記念現代法研究所主催で以下の3回のシンポジウムを開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自治体議会改革の実態把握と,現代社会における民主主義の理論的な分析を総合することがこの研究の主目的である。 そのうち,自治体議会改革の実態調査については,全自治体を対象とする3回の定点観測的な調査と,訪問調査や主催するシンポジウムへの改革当事者の招聘等によってかなり詳細に定量的,定性的両面での事実把握を深めることができた。また,平成28年は,近年の議会改革のスタートと位置づけられる北海道栗山町の議会基本条例制定10周年にあたり,この10年間の自治体議会改革を振り返るシンポジウム類が多数開催され,研究代表者の廣瀬はそのいくつかに登壇し,他の登壇者との意見交換や当事者による振り返りに直接接する機会を得た。これらによって改革実践者の論理をより内在的に理解することができた。 実証的な調査によってこの3年間の間に,議会基本条例の制定数が減り始め,議会報告会の開催自治体数の伸びが鈍るなど,改革の量的拡大にブレーキがかかり始めていることが確認できている一方で,自治体議会改革を先導してきたいくつかの議会では,新たな改革課題を設定して次のステップに進むなど「先進議会」のペースは鈍っていないことも把握できている。この両面が共存しているという実態を実証的に確認できたことが本研究の独自の成果であると考えている。 理論,歴史面での研究については,政治史,思想史的な研究成果を研究会で報告し,上記のような作業で把握した現状とつきあわせる作業を続けた。しかし,その成果を取りまとめていく前に,この1年ほどの間にあらためて注目を集めた「主流派政治」に対する反発と,ポピュリズムの傾向が,議会政治にとってどういうインパクトをもつかという点にまずは着目することとなり,まだまとめ切れていない段階にある。こちらの成果をまとめた上で出版計画を実現することによって,当初の目的は概ね達成し得るものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べたように,本研究計画のここまでの取り組みで残されている課題は,理論・歴史面での検討と,現状分析の架橋をより実質化することにある。長めのタイムスパンをとった歴史的・理論的視座の下に,近年の日本における自治体議会改革を位置づけるところまではある程度実現できたと評価しているが,ミクロな現状分析に対してマクロな枠組設定をする段階に止まっている。この点を更に深めることが必要だが,その突破口がようやく見えつつある。 そのヒントは,現下の東京都知事と東京都議会との関係性の検討にある。平成28年東京都知事選挙以降,議会改革が東京都議会の政策アジェンダに載りはじめた事象からは,行政国家化,政治的な危機状況における政治家の個人的なリーダーシップへの期待の高まりといった論点を,現在の具体的な政策過程を通して分析する機会を与えてくれている。20世紀の歴史的な分析と,現在の日本の自治体議会の動向分析との間には,必然的に一定の距離と抽象度の落差が生じるが,現在発生している事象を通しての分析であれば,その距離を縮めることがある程度容易になる。 この点での実際の検討と分析の作業は,事態がなお現在進行中であることもあって,現時点ではまだ不十分であり,今後更に深めていく必要がある。幸い,出版計画が来年3月であることから,東京都議会議員選挙後の自治体議会改革をめぐる議会内および議会対首長の政治過程を踏まえて,本研究計画としての成果を取りまとめることがぎりぎり可能である。 延期して実施中の実態調査の3年目の分析と全体の考察とあわせて,共著の出版により最終的な研究成果を世に問うていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
自治体議会運営実態調査については,議会の会期中には回答作業が困難であるため,第1回定例会開催前の時期に調査票を送付し回収に努めているが,例年定例会前には回答のない議会が相当数に及ぶ。回収率を高めることが分析の精度を向上させるためには不可欠であるため,第1回定例会終了後にあらためて回答の督促を行い,その回答が揃ったところで分析作業に着手するというスケジュール設定をすることがやむを得ず必要であると判断し,延期手続をとって平成29年度に作業を延ばすこととした。それにともなって,同一議会の回答を3カ年にわたって追跡しての分析など,平成28年度調査結果を待って行うことが必要な作業の着手を平成29年度初頭に回す必要が生じた。 また,出版計画が2018年3月となったことにともない,研究分担者間の打合せを原稿確定まで続ける必要があり,研究会開催のための活動を平成29年度にも継続する必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
以下の活動を実施したい。①平成28年度実施の自治体議会運営実態調査の督促,データ入力,分析。②平成26年度から28年度実施の自治体議会運営実態調査の時系列分析の実施。③研究成果の刊行に向けての編集会議及び草稿の総合調整。
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