研究課題/領域番号 |
26285037
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
波多野 澄雄 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (00208521)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歴史問題 / サンフランシスコ講和条約 / 対日平和条約 / 賠償問題 / 戦後日本外交 / 日韓国交正常化 |
研究実績の概要 |
28年度は、秋に研究のとりまとめのための国際シンポジウムを予定し、中国側代表の歩平氏(社会科学院近代史研究所)とともに準備を進めていたところ、歩平氏が8月初旬に急逝され、やむなく中止した。その代替企画として12月3日に東京都港区の麻布台セミナーハウスにおいて、来日中の潘洵教授(西南大学)および徐勇教授(北京大学)を招いて小規模な国際研究セミナーを実施した。潘洵教授は、日本軍の重慶大爆撃について長年の調査をまとめた研究書を中文、邦文で出版したところであり、徐勇教授(北京大学)も重慶爆撃に関する研究論文がある。そこで本セミナーのテーマを「重慶大爆撃研究の現状と課題」とし、重慶爆撃について著作のある前田哲男氏、伊香俊哉教授(都留文科大学)にも参加いただいた。本セミナーは、重慶爆撃の実態解明と内外への影響と探ること、さらに重慶爆撃訴訟を事例に、サンフランシスコ講和体制の法的枠組みと「戦後補償問題」の関連を掘り上げることにあった。講和体制は、1990年代に入って、当初は想定しなかった「戦後補償問題」に直面し、その法的枠組が国際的に問われることになったが、戦後補償問題の一つが重慶大爆撃であり、今日まで裁判が続いている。そこで、本セミナーには、戦後補償問題に長くかかわっている弁護士の一瀬敬一郎氏をとくに招き、戦後補償問題の現状、国際法的な問題点などが報告された。 最終年度にあたり、講和体制の法的枠組の運用実態と限界、および内外政治の展開との関連について、これまでの個別の事例研究(サンフランシスコ講和条約を基点とする一連の各国別の平和条約、賠償協定など)を踏まえ論点を整理した。その一部を5月に中国・南開大学日本研究院で発表した。 また、本研究の出発点となった拙著『国家と歴史』(中公新書、2011年)が、韓国語および中国語で刊行されたが、それぞれ本研究の成果を取り入れて改稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、1951年に調印されたサンフランシスコ講和条約を基点とし、その後の一連のアジア諸国との条約(日華平和条約、日韓基本条約、日比賠償協定など東南アジア諸国との平和条約・賠償協定、日中国交正常化)を、相互に関連した「講和体制」ととらえ、この講和体制が日本自身の「脱植民地化」といかに関連しているが、今日の多くの「歴史問題」の発生とどのような関係にあるのか、などを探ることにある。 とくに27年度と28年度に分析対象として力を入れたのは、(1)賠償問題の中軸をなす「請求権」という観点から、旧植民地であった韓国、台湾の戦後処理プロセスの検討と歴史問題への影響、(2)東京裁判を含む国際軍事裁判は、講和体制にどのように位置づけられたのか、その日本における受け止め方。(3)上記2課題の分析を踏まえたうえで、日米関係における歴史問題の性格を明らかにすること。 28年度は、とくに外務省が公開した戦犯関係資料と経済協力関係資料の分析を進め、法的枠組みとしてのサンフランシスコ講和体制における日米関係の位置づけについての事例研究とした。 28年度の以上の研究状況を加味すると全期間を通じて研究はおおむね順調に進展しているが、とりまとめのための補足調査と研究成果の公表(論文等の発表、セミナーの開催)のための準備期間がやや遅れがちである。
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今後の研究の推進方策 |
29年度までの研究期間延長が認められたため、以下の諸点に関する研究推進に、とくに注力する。(1)これまで研究が手薄であった在外財産の処理に関する経緯を公開資料で明らかにすること、(2)中国における対日国交正常化関係の資料公開の遅延を補うため、日本および台湾における外交史料の見直しと既存の研究成果の分析を進める、(3)前年度に中止を余儀なくされた国際シンポジウムについて、専門家(とくに若手研究者)を中心とした研究集会の可能性を探る。想定されるテーマは、「サンフランシスコ講和体制と持続と変容」(仮題)などが考えられ、これまでの研究成果について、いくつかの論点に絞ったうえ、意見交換を行い、最終的なとりまとめに生かす。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年の秋に開催予定の国際シンポジウムを共同で準備していた中国社会科学院近代史研究所の歩平氏が28年8月に急逝されたため、代替企画として、東京で開催した小規模な研究セミナーにとどまった。 予定していた海外資料の調査(とくに中国の档案館)が閲覧制限などによって十分に進まなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度までの延長が認められたため、海外調査、とくに国交正常化をめぐる日中間のやりとりに関する情報の入手に努め、関連する文献調査を進める。とくにインターネットを通じた資料への直接アクセス、DVDなどの入手に努める。 中国、韓国、台湾、アメリカ等から若手研究者を招いて本研究課題に関する研究集会の開催を企画する。
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