研究課題
複数の利害関係者による単一の意思決定は、社会経済のあらゆる場面で観察できる意思決定の重要な形態であり、その特徴やプロセスを解明することは社会科学全般における重要な課題である。本研究は、心理学などで提案されている集団意思決定のモデルを利用することにより、戦略的状況下で、集団が個人とは異なる様々な性質を見せる背後にあるメカニズムを、モデル構築と実験による検証を通じて明らかにしていく。戦略的状況の特色を踏まえて、選好・他者への信念・他者からの信念、という3点から集団は個人と比べてどのように変質をするのかに注目する。さらに、利害の異なる個人から構成される集団の意思決定についても同様の手法で明らかにしていく。27年度は、集団の選好が個人の選好と比べてどのように変質するのかを、利己的選好か利他的選好かという社会的選好に関するドメインと、どの程度のリスクを許容し好むのかというリスク選好のドメインの、二種類について明らかにするような実験をデザインし、実施した。実験の結果、個人にそもそも備わっている利他性やリスク回避度をコントロールしたとしても、個人は他者と利益を共有するというただそれだけで、より利己的に、よりリスク回避的になることが確認できた。本結果は英文学術雑誌に投稿する準備をしている段階である。この他、集団と個人のリスク下における意思決定を比較する研究の一環として、相手が攻撃してくるかもしれないという恐怖から、防衛的な先制攻撃をするかどうかを検討するような課題において、集団から個人への先制攻撃の頻度が、個人から個人、集団から集団、よりも有意に頻繁に観察されることを明らかにした。当該研究は PLoS ONE に掲載されている。
2: おおむね順調に進展している
27年度は、集団内の個人は、単なる個人として振る舞うときと、選好そのものが変化している可能性を明らかにするような実験を実施した。実験結果は論文としてすでに纏められている。計画に微修正はあったものの、順調に進んでいるといえる。
計画通りに実験を実施していく。実験実施に際して、本学PDの田村氏の協力を仰ぐ予定である。また、被験者数の観点から本学だけで実験が完結できないような際には、早稲田大大学、京都産業大学、関西大学の実験室に協力を要請する予定である。
本学の実験参加者プールの整備とマンパワーの欠如により、初年度(H26)に予定していた量の実験が実施できず、計上していた謝金額を使用できなかったことが原因である。当該問題は、高知工科大学以外の実験実施場所を使用すること、実験実施にPDの助力を得ることを通じてH27年度には解決されており、H27単体で見れば順調に研究は進んでいる。
未使用額1,577,765は、H28年度の実験実施用の謝金と旅費として使用していく計画である。H28年度の申請額3,000,000と合わせて、500,000を物品として、2,500,000を謝金として、1,500,000を旅費として, 77,765をその他として使用する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
PLoS ONE
巻: 11 ページ: e0154859
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0154859