研究課題/領域番号 |
26285059
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池尾 和人 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (00135930)
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研究分担者 |
土居 丈朗 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60302783)
小林 慶一郎 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60371184)
寺井 公子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (80350213)
別所 俊一郎 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (90436741)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 経済危機 / 危機管理対応 / コンティジョン / 金融システム / 財政健全化 |
研究実績の概要 |
2014年度は、下記のような研究を行った。 財政危機に関連する研究としては、次の通りである。実証面では、日本の市町村の長期時系列データを動学的な観点から分析した。この分析により、なんらかの財政ショックに対して市町村がどのような政策手段を用いてどれほどの期間をかけてそのショックを吸収しているのかを明らかにした。また、日本の地方政府の財政健全化に関するデータの整備を進めたほか、地方政府の財政健全化に大きな影響を持つ医療保険の財政についても分析を進めた。 さらに、政府債務に限らず、債務一般がもたらす借入制約の厳格化を中心に理論的な考察を行った(借り手は政府に限らず、企業等も含んだ一般的な借り手を想定している)。借入制約にある種の性質があるときには、債務残高が増加することにより、返済に長期間がかかるようになり、非効率な経済状態が長引くということが示された。このモデルの性質を政府債務の問題に適用して政府債務の持続可能性や債務残高が過大になった場合の実体経済のパフォーマンスがどのように推移するかを分析することが今後の課題となる。 財政危機と金融危機のコンテイジョンが生じる可能性に関連する研究としては、次の通りである。公的金融と民間金融の役割分担が、世界金融危機後に再検討されていることを受けて、公的金融が関与することを通じて経済厚生を高められる余地はどのような状況でありえるかを分析できる理論モデルを構築した。公的金融から資金供給を受ける家計で、公的金融のシェアが上がるにつれて効用水準が上がる状況が支配的なら、社会厚生を最大化する公的金融のシェアが存在し、このシェアが公的金融と民間金融を望ましく棲み分ける状況であるといえる。しかし、シェアがこの値より大きくなると、社会厚生が低下する意味において、「民業圧迫」に伴う経済的損失が発生していると考えられる、との結論を導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
財政危機に関連する研究において、モデルの構築と改訂について新しいアイデアを得て発展させている途中である。試行錯誤はあるが、モデルの性質を探るプロセスをこの一年で実施できたので、今後はさらに進展が期待できる。また、予算過程に関する分析では、当初はエージェントが一人のモデルを構築する予定だったが、複数のエージェントを導入できたことで、群集行動の発生を、リスクに対する態度から説明することが可能になった。こうした分析結果はディスカッション・ペーパーにまとめ、学会でも発表した。 市町村の長期時系列データを用いた動学的分析においては、順調に行われたが、財政健全化の分析については一般会計・特別会計・普通会計等の会計区分が複雑で、予算と決算のデータが散在しているため、データの整備に時間を要している。財政危機と金融危機のコンテイジョンが生じる可能性に関連する研究おいても、モデルの構築を行い、おおむね順調に推移している。 ただし、2014年度は、共同研究開始の初年度であり、研究分担者それぞれの個別的な研究の成果がまとまってくるのを待つかたちとなり、それらを結びつけて、財政危機と金融危機が相互に増幅し合うかたちで拡大して行くコンティジョン(伝染)のメカニズムの全体像と詳細を明らかにするという課題の達成には、未だ至っていない。2015年度は、このコンティジョン・メカニズムの全体像の詳細な解明という課題を達成することを目指す。そして、メカニズムの深い理解の上に、危機の予防および危機への対処という二段構えでの危機管理対応のあり方について、可能な限り明瞭な政策的インプリケーションを導くことを最終年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、理論モデルの性質をコンピュータシミュレーションで詳しく調べ、また、関連分野の研究者と意見交換を行うとともに、学術論文としてまとめ、国内外の学会等での発表を目指す。2014年度に構築したモデルを修正し、プリンシパルとエージェントの間に情報の非対称性が存在することを仮定する。基本モデルを2期間モデルに拡張し、エージェントによるシグナリングが、財政状況に与える影響について分析する。また、プリンシパルが適切なインセンティブを与えることで、群集行動を防ぐことができるかどうかについても考察する。また、市町村と比較するとサンプルサイズも少なく、統計の整備も進んでいる都道府県に焦点を当てて、引き続き財政健全化の分析に必要なデータの整備に努める。 なお、初年度は、研究分担者が個々に研究を進めるということが中心であったが、2年目の2015年度には、研究報告会のようなかたちのミーティングを定期的に開催し、相互の研究成果を結びつけて、財政危機と金融危機が相互に増幅し合うかたちで拡大して行くコンティジョン(伝染)のメカニズムの全体像と詳細を明らかにするという課題の達成に至るようにしたい。また、関連した問題関心をもち学ぶべき成果を上げている海外の研究者を積極的に招聘し、国際交流を図りながら研究の深化と対外的な発信を強化したい。 同時に、実際の日本経済の動向に対する感度を高く保ち、現下の金融政策・財政政策および金融規制の展開がもつインパクトを直接的なものだけにとどまらず、その中長期的なインプリケーションを見極めて、適時に広く社会に見解を発信していくことも引き続き行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会に出席する予定だったが、大学の用務等の理由により渡航ができなかったことや、分析に必要と思われたパソコンの購入を、スペック等の理由により延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
財政危機と金融危機に関連する研究を行っている海外の経済学者を招聘して、研究状況についての意見交換や本研究内容に直接関連する内容の共同研究を行う。分析に必要なパソコンの購入を2015年度に行う。
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