研究課題/領域番号 |
26285064
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯塚 敏晃 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00406810)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 医療経済 / 医師偏在 / 医師不足 / キャリア形成 / 動学構造推計 |
研究実績の概要 |
近年我が国においては、医師の偏在・医師不足が大きな社会的問題として取り上げられてきた。本研究では、これに関連する二課題に関し、医師調査個票データを用いた実証分析を行う。第一に、医師の長期パネルデータと動学的モデルを用い、医師が、退職、地域間移動、 開業/勤務医、専門の選択等のキャリア選択を如何に行い、どのような要因が意思決定に影響を及ぼすか、構造推定する。また推定したモデルを用い、医師偏在の解消に向けた制度・政策の効果を仮想的に検討する。第二に、医師不足・偏在に大きな影響を与えたと言われる新臨床研修制度(2004年)などの日本の医療制度が、i) 医師分布、ii) 医師賃金、iii) 病院の退出、iv)医療のアウトカム、といった日本の医療システムにどのような影響を及ぼしたか、個票データを用い定量的に把握する。 本年度は以下の研究を実施した。 1.【課題1,2】データセットの再構築:厚生労働省の医師調査の個票を目的外利用申請した上で、医籍番号に基づき医師レベルの長期パネルデータを再作成した。 2.【課題1】性別の影響を明示的に考慮した医師のキャリア選択に関する動学的モデルの定式化:医師のキャリア選択、特に開業の意思決定に関し、男女間での相違に着目した動学的離散選択モデルを構築し、コンピュータ上でシミュレーションができるように数理表現した。 3.【課題1】モデルのパラメターの推定:計量経済学な手法に基づき、動学的離散選択モデルから計算される動学的な経路が、上述のパネルデータから観察される経路にできるだけ近づくように、モデルのパラメターの値の推定を試みた。 4. 【課題2】新臨床研修制度の導入(2004年)の影響が上記の4つのアウトカムに及ぼした影響に関し、二次医療圏を分析単位とした誘導系の固定効果モデルを推計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度についても、まず厚生労働省から医師調査の個票データの使用許可を得て、予定通り分析を開始した。分析作業は、課題1、課題2を並行して進め、いずれもおおむね順調に進展した。課題1に関しては、医師のキャリア選択に係る動学モデルの精緻化とパラメーターの推定を行った。課題2に関しては、関連研究が、医療経済学のトップジャーナルの一つである Health Economics誌から刊行された (Iizuka, T. and Y. Watanabe. 2016. "The Impact of Physician Supply on the Healthcare System: Evidence from Japan's New Residency Program.")
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は課題実行の4年目となる。課題1に関しては、上記のモデルの精緻化・修正を進めると共に、推計パラメターを用いた反実仮想分析も行う。課題2に関連しては、臨床研修制度が及ぼした影響ついて、分析内容を日本語でも紹介するなど、成果普及活動も行いたい。また、追加の研究課題として、近年医師の専門分野の細分化が進んでいることに関連し、専門分化が医師偏在に及ぼす影響について定量的に分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者である渡辺教授(香港科学技術大学)の来日が後ずれしたこと、また、研究助手の採用が後ずれしたことにより、研究費の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度も渡辺教授(香港科学技術大学)に来日いただき研究協力いただくため、そのための旅費として研究費を使用する。また、髙橋雅生氏(東京大学大学院経済学研究科博士課程)にも研究協力をいただき、さらに研究を進めていく。
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