研究課題/領域番号 |
26285065
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
土居 丈朗 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60302783)
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研究分担者 |
寺井 公子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (80350213)
別所 俊一郎 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (90436741)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 共有資源問題 / 財政健全化 / 地方分権 / 政府間財政関係 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、今後の分析のベースとなる基本モデルを作成した。政府間関係の理論的分析として、連邦制度下で、中央政府から地方政府に対して行われる所得移転が、地方政府の革新的・実験的政策の実行へのインセンティブになるかどうかについて考察するために、プリンシパルによる予算上限設定に続き、エージェントが上限範囲内で、複数施策に予算配分を行う1期間モデルを構築し、完全情報を仮定して分析を行った。エージェントがリスク回避的な場合には、複数の自治体による群集行動が発生し、革新的な政策によって促進されることが期待される経済成長が実現されないであろうことを示唆する結果を導いた。 実証分析については、日本の市町村の長期時系列データを動学的な観点から分析した。この分析により、なんらかの財政ショックに対して市町村がどのような政策手段を用いてどれほどの期間をかけてそのショックを吸収しているのかを明らかにした。海外の地方政府と比較すると、日本の市町村の政策対応の特徴は、租税や地方債などではなく、公共投資が外的ショックを吸収する政策手段として大きく用いられている点にあった。今年度はまた、日本の地方政府の財政健全化に関するデータの整備を進めた。 また、社会保障制度におけるわが国の国と地方の財政関係について、医療提供体制の見直しが進められる中、地域医療構想の策定に焦点を当てることとし、病床再編が行われることにより財政面でどのような影響が及ぶかを分析できる枠組みを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本モデルの構築と分析を行い、地方分権を推進しても、必ずしも地方による革新的な政策の実行が促進されないであろうことを示す分析結果を得た。このような結果をTerai, Kimiko, and Amihai Glazer (2014) "Insufficient Experimentation Because Agents Herd," Keio-IES Discussion Paper Series DP2014-008にまとめ、学会でも発表した。 市町村の長期時系列データを用いた動学的分析は順調に行われたが、財政健全化の分析については一般会計・特別会計・普通会計等の会計区分が複雑で、予算と決算のデータが散在しているため、データの整備に時間を要している。さらに、社会保障制度におけるわが国の国と地方の財政関係について、地域医療構想の策定を踏まえた分析の枠組みを構築し、おおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に構築した基本モデルは完全情報を仮定しているが、平成27年度は基本モデルを修正し、プリンシパル(中央政府)とエージェント(地方政府)の間に情報の非対称性が存在することを想定する。基本モデルを2期間モデルに拡張してエージェントによるシグナリングの効果を分析し、地方政府に革新的な政策を行わせるインセンティブとなるような、地域間財政調整制度を設計することが可能かどうかについて、考察を深める。 また、市町村と比較するとサンプルサイズも少なく、統計の整備も進んでいる都道府県に焦点を当てて、引き続き財政健全化の分析に必要なデータの整備に努める。このデータ整備は、地域医療構想の策定、さらには病床再編による医療費適正化が財政面に与える影響を分析する際にも役立つものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
出席する予定だった国際学会に、大学の用務等の理由により渡航ができなかったことや、次年度にデータ収集・入力のためのアルバイト謝金を、予定より多く使用する見込みとなったことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
データ収集・入力のためのアルバイト謝金を、予定より多く使用する見込みである。
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