研究課題/領域番号 |
26285094
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂川 裕司 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40301965)
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研究分担者 |
岩田 智 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00232679)
平本 健太 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00238388)
谷口 勇仁 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (60313970)
鎌田 直矢 北星学園大学, 経済学部, 講師 (50756385)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 商業 |
研究実績の概要 |
今年度は,前年度までに実施した調査結果をもとに,サプライヤーとの協働関係,小売業の市場志向,小売企業の情報技術,MD革新,成果の概念に着目して,概念間の関係を定量的に測定し,分析によって仮説を検証する作業を行った。その検証作業のうち,主な成果として以下を挙げることができる。まずチェーン小売業における市場志向と革新志向,店舗成果の関係について,組織構造による影響の存在を確認することができた。小売業はチェーンストア経営管理を採用し,集権化と公式化を強めることによって,チェーンメリット(規模優位性)を増大させることができる。その一方,市場志向の観点からすると,集権化と公式化の強化は,市場知識の生成,共有,それに基づく反応に対して負の影響を及ぼし,革新志向や事業成果に対しても負の影響を及ぼすと推測される。しかし分析結果からは,集権化の程度は負の影響を示したが,公式化の程度は正の影響を示した。これはチェーン小売業において情報システムを活用することにより,公式化による市場志向の促進が可能となっていると考えられる。この結果を踏まえて,情報システムによるMD戦略への影響を分析するモデルを構築し,定量的な分析を行った。次に小売店舗ではなく,小売企業における市場志向に着目し,小売企業の市場志向とサプライヤーとの協働関係が成果に及ぼす影響を検討した。理論的には「組織間市場志向」という概念が提唱されるように,市場取引関係にあるサプライヤーと小売企業は相互に独立した取引関係を維持しつつも,市場志向に基づく行動において協働することが考えられる。また先行研究によって明らかにされているように,市場志向の増大によって,組織の革新志向も高められると考えられる。分析の結果,サプライヤーとの協働関係と小売業の市場志向の間に影響関係のあることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は実施された質問表調査のデータを分析することと並行して①データベースの更新作業,②試験的な分析枠組の構築作業,③内外研究機関との意見交換が行われた。①について,前年度に蓄積したデータの更新作業,ならびに新たな情報を加えるデータベース更新作業を行った。②について前年度に取り組んだ研究活動の成果である質問表調査のデータを利用し,先行研究のレビューに基づいて複数の分析枠組を構築し,仮説を検証した。③について,学会および研究会,あるいは研究機関の訪問を通じて,本研究に関連して知見のある研究者に接触し,第三者の意見を収集した。日本商業学会の全国大会や各種部会での報告,FinlandのAalto University の訪問を行っている。また平成27年度末から,小売企業における協働行動と企業成果の関係についてデータベースを構築および整備し,マクロ的な視点から協働MDと成果の関係について分析を試みた。企業成果との関係を分析するために,新聞記事/雑誌記事から得られた企業行動に関する質的情報を量的情報に変換する作業とコード化の作業を行った。まずマクロデータを用いて小売業における在庫リーンネスと成果との関係を検討した。先行研究においてサプライヤーとの協働関係が在庫リーンネスに影響を及ぼすことが指摘されている。在庫リーンネスとは在庫管理の効率性を意味する概念である。分析の結果,分析対象となった上場小売企業のすべてにおいて,業態の別なく,在庫リーンネスの改善によって事業成果が高まるという関係が明らかとなった。ただし企業間を比較した場合,在庫リーンネスと企業関係に多様性が見られた。現在,コード化したデータを利用して,企業行動と成果の関係を質的に分析する段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は構築した質的データベースを活用して①質的比較分析の実施,②分析枠組の精緻化,③代表事例企業に対する聴取り調査に加えて,④質問表調査の準備を予定している。①について質的データベースから本研究に関連する事例を抽出し,ケース・スタディやQCAなどの定性的分析を試みる。理論的にサンプリングされた事例を詳細に分析することを通じて,分析枠組に関連する行動変数,成果変数,媒介変数,状況変数を抽出し,質的比較分析を実施する。②について,前年度までに構築した分析枠組を,定性的分析の結果を踏まえて精緻化する。③について,定性的分析において取り上げた企業を主な対象として,聴取り調査を試みる。なお年度内は,以下のスケジュールを予定している。4月-9月・代表企業に関する質的比較事例分析により,協働MDのメカニズムを規定する諸要因を抽出する。さらに質的比較事例分析を通じて抽出された諸要因に基づいて分析モデルの構築を試みる。10月-3月・次年度に行う質問票調査のための予備調査を開始するとともに,質問票のストラクチャーの検討を行う。 また④として現在,前年度までに実施したチェーン小売業を対象とした質問表調査のデータについて,サプライヤーとの協働関係が小売企業の市場志向,革新志向,成果に及ぼす影響について定量的分析を継続している。この分析結果から,二次資料のデータベースを踏まえて,新たな分析枠組を構築し,質問表調査の準備に取りかかる予定である。 そしてこれらの調査結果について,国内外における報告を通じて,研究者から意見を徴収する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず当初予定していた国際学会での報告について,うち一件を2015年度内開催の学会から2016年度開催の学会に変更することになった。次に海外研究機関における在外研究期間を,当初予定した期間から短縮した。そして当初,データベース構築に関する情報の収集および入力等について研究支援要員を雇用する予定であったが,研究メンバーにより予定した作業を終えることができた。以上の理由から,次年度使用額のが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年は次年度使用額について以下の計画を立てている。第一に学会報告について,延期した国際学会について研究成果を報告する(すでにアクセプト済である)。また国際学会だけではなく,国内学会においても研究成果を報告する。第2に海外研究者との共同研究を促進するため,海外研究機関を訪問し,本研究に関する情報収集および研究ネットワークを構築する。第3にこれまでの実証分析の結果を踏まえて新たなモデルを構築し,最終的な質問表調査の実施準備に取りかかる。この際,研究支援要員を雇用する予定である。以上の使用計画にもとづいて予算を執行する。
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