本研究は、従来の国際会計研究の問題点を洗い出すとともに、当該問題を克服する新しい分析枠組みと分析方法を構築することを目的としている。平成28年度には、平成26年度および27年度の研究実績に基づいて、分析方法の開発・洗練化を行ってきた。 先行研究の多くは、IFRSの導入が正または負の影響をもたらすが、その影響の内容・程度は、国・地域ごとの会計インフラストラクチャによって影響を受けることを示唆している。会計基準と関係インフラとの因果関係に関する実証研究は、時間効果と導入効果との区別を明確にできておらず、会計インフラの変化の影響をとらえきれていない。このような問題点を克服する新しい分析枠組みとして、会計基準と会計インフラストラクチャの双方が規定し合い、同時に変化するという関係を新制度派経済学に基づいて共進化として理論的に同定することを提案した。 上述の会計基準と会計インフラとの共進化という枠組みにおいては、新たな分析の手法が必要となる。会計インフラが相違する複数国で国際会計基準導入の影響が相違する場合、自国基準を採用している企業をコントロール・サンプルとするDID分析やメタ・アナリシスが有効である。ただし、DID分析やメタ・アナリシスによっても,会計インフラがもたらす反復的な因果メカニズムを解明することは困難であるため、多数の事例研究を同時並行的に行っていくことによって実証研究の結果を補強していく必要がある。その際、国際政治研究において多くの成果を挙げている事例研究の一種である過程追跡アプローチが有効であろう。実証分析の成果をメタ・アナリシスによって統合し、また会計ンフラが相違する中での会計基準の経済的帰結の相違についてはDIDを適用し、さらに実証研究と事例研究を相互補完的に統合することによって、会計基準と会計インフラの双方向の反復的影響という世界の会計の現状を総合的に把握することが可能となる。
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