研究課題/領域番号 |
26285107
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 三和夫 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50157385)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 構造災 / 制度化された不作為 / 経路依存性 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度までの分析の結果をまとめ、政策が逐次的に連鎖する軌道をたどることにより、問題当事者に不作為を介した社会的失敗がもたらされるメカニズムを特定した。とくに、科学技術政策における局所的成功と社会的失敗が同居する結果として、問題当事者がいかにして社会的受忍を余儀なくされるかを敷衍した。 第1に、戦前の戦時動員の文脈である対米開戦の状況と現在の放射性廃棄物処分の文脈である福島事故の状況の差異に注目し、状況の差異を差し引いて残る本研究の知見の社会学的含意が何であるかを検討した結果、制度化された不作為の要素が2つの異なる文脈を貫く共通部分であることを見いだした。 第2に、理論研究の予想と合致しない特性が何であり、なぜそのような特性が生まれるかを構造災の枠組みに照らして再考した。その結果、制度化された不作為の発現するメカニズムにはアクターネットワーク理論が想定するような「ずらし」(déplacement)の効果は認められなかった。その背景には、緊急時においてはより深いメカニズム(以下に述べる経路依存性)が関与する可能性が想定される。 第3に、本研究の知見が妥当する範囲の条件を明確にするため、逆に系統的な科学技術政策が不在であるにもかかわらず極端な社会的失敗を回避しえた状況として、戦後日本の原子力3原則の成立をもたらした要因に注目し、前年度までの分析の結果をふまえて、何が本研究の知見が妥当する範囲を決める境界条件になりうるかを検討した。その結果、日本学術会議の公開、民主、自主の原則が原子力3原則に一部反映している反面、既存の状況の経路依存的作用による公開原則の適用範囲の縮小が帰結していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までおおむね順調に進捗している。予想外の要因として挙げられるのは、本研究と密接に関連する問題領域に関連させて批判的コメントを得る予定であった専門家グループの中心人物であるJ. Ahn教授(カリフォルニア大学バークレー校)が平成28年に突然逝去されたことである。逝去された当初は、それほど大きな影響がなかったものの、これまで行ってきた分析の結果をとりまとめる本年度の研究の進捗にとっては批判的コメントを得られない状況は予想以上に大きな影響をもった。しかしながら、同教授の批判的コメントを補う機会が本年度の研究中にあらわれ、当初の計画をほぼ予定どおりに進捗させることができた。すなわち、フランスの国立パリ鉱山大学リスクと危機研究センター(Centre de recherche sur les Risques et les Crises)長のFranck Guarnieri教授より、構造災に関する招待講演の依頼を受け、平成29年11月28日に同校で招待講演を行うとともに、同教授より批判的コメントを得ることができた(同講演にともなう渡航費用等はフランスの国立パリ鉱山大学リスクと危機研究センターの支出によるため、本科学研究費には計上されていない)。その結果、これまでの分析結果のとりまとめに関する見通しをたてることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、最終的な成果を国際的な流通チャンネルに乗る学術成果として広く世界の研究者集団に向けて発信してゆきたい。とりわけ、口頭発表にとどまらず、学術刊行物のかたちで成果を社会の各層に広く伝えてゆきたい。そのために、現在英国Routledge社と学術出版契約を締結し、本研究の成果をもとに、The Sociology of “Structural Disaster”: Beyond Fukushimaと題する学術書の刊行の準備をすすめている。刊行までには、先行研究のレビューをふまえた研究内容の重複点検、先行研究を一部利用する際の著作権手続、コピーエディターとのやりとりをとおした原稿の内容の推敲等々、クリアしなければならない数々の事項が存在する。本研究の成果をふまえてそうした一連の事項を確実に遂行するためには、すくなくとも1年の研究内容のチェックを要する見通しである。それゆえ、今後、期間延長年度にあたる本年度中に英語による学術出版に向けたそうした実質的な作業を可能なかぎり効率的に推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果のとりまとめの段階において批判的コメントを得る予定であった専門家グループの中心人物であるJ. Ahn教授(カリフォルニア大学バークレー校)の逝去にともない、同教授の批判的コメントのための費用(渡航費、謝金、関連費用)等が消化されず、次年度使用額が生じた。今後、別途成果をとりまとめ、英語の学術書として成果を刊行する計画を遂行することにより全額消化する予定である。
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