研究課題/領域番号 |
26285145
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山口 裕幸 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (50243449)
|
研究分担者 |
池田 浩 福岡大学, 人文学部, 准教授 (80454700)
縄田 健悟 九州大学, 学内共同利用施設等, 講師 (30631361)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 集団・リーダーシップ / チームワーク / 暗黙の協調 |
研究実績の概要 |
初年度となる平成26年度は、計画していた通り、以下の取り組みを実施した。 まずは、関連先行研究のレビューを行って、“暗黙の協調”や“メンタルモデルの共有”、“チーム全体の連動”といった本研究の中核をなす重要概念の定義を構成概念にとどめず、客観的に測定しうる行動属性によって定義する工夫を行い、理論的枠組みの精緻化をはかった。この取り組みは、研究の基盤を確かなものにするうえで地道ではあるが、極めて意義深いものとなった。 また、チームによる業務遂行を日常的に行っている機器製造企業、システム・エンジニアリング企業の協力を得て、成員のチームワーク行動や心理状態を測定する質問紙による大規模な組織的調査研究を実施して、“メンタルモデルの共有”や対人的交流記憶(transactive memory)に代表される“メタ認知の共有”および“暗黙の協調”が成立している程度を測定し、これらのチーム・プロセスの様相が、チームの業績の高低に以下に関連しているか分析を行った。この成果は学会で発表するとともに、学会誌に投稿し、掲載が決定した。本研究の重要性と独自性を広く社会に知らせる意義の高い取り組みとなった。 さらに、メンバーがチーム活動を実践する過程でメンタルモデルやメタ認知を共有し、“暗黙の協調”が実現される様相を、時系列を追いながら観察・測定できる2つの実験パラダイムの構築に取り組んだ。ひとつはチームメンバーが連携しながら行うゲームを活用したパラダイムである。これは、短時間の作業の中でメンタルモデルの共有が進む過程を種々の測定を入れながら検討することを可能にした。もうひとつは、3日間に渡って連続してチーム活動を行いながら、多様な課題に対するメンバーの対応の様子やパフォーマンスを観察して行動分析を行う実験を行った。これらは実験に基づく緻密なプロセス分析の方法論を拓く重要な取り組みとなっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた3つの取り組みは全て実施して、得られた成果を学会で発表し、学術誌に掲載することもできた。予定していた研究施設の使用が、予期せぬ理由で不可になったが、代替施設が使用できるように対処して、計画していた実験の実施を実現した。また、上記研究施設を使用して行う実験で予定していた測定システムの利用ができなくなったが、新たに行動観察の技法を取り入れて、オリジナルな測定システムの開発に取り組むことで対処をはかった。こうした不測の障害に直面したが、研究分担者たちの協力を得て、遅滞なく研究は進んでおり、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も現場の観察調査と実験室実験を両輪とする実証活動をさらに充実させて豊富なデータを蓄積し、“暗黙の協調”が実現され、促進されるチーム・プロセスの特性解明を着実に進める。 まず、初年度に実施した実証研究をさらに発展させ、明瞭に目に見える現象ではないメンタルモデルの共有と“暗黙の協調”の達成度を測定する客観的指標の開発に取り組む。初年度に実施したチーム・プロセスの詳細な観察記録と成員の心理や行動の変動の様相のマッチングを検証する手順のさらなる精緻化が、今後の課題となってくる。この課題を克服するため、映像分析工学の専門家および複雑系計算学の専門家の協力を得て、より精確で効率的な手法の開発に取り組む。 さらに、長期継続型実験によるチーム・コミュニケーションの質的変容プロセスの検討に着手する。チーム活動を比較的長期にわたって継続させながら、チーム・コミュニケーションの様相を、対話行動、情報共有、メタ認知共有、メンタルモデル共有の指標によって測定し、その質的変容とチームワーク特性との関連性を検討する実験室実験を行う。その際、初年度の現場研究で見いだされた“暗黙の協調”を促進する変数を独立変数として投入し、その効果を精査することも試みる。ここでは、本研究の中核をなす重要概念の客観的測定可能性を確保することが大事な課題になってくる。科学哲学の専門家の助言を得て、今一度、測定することを念頭においた精確な概念規定を行い、その測定技法の精緻化を進める。 実証研究の推進に不可欠な被験者や調査対象者の確保については、協力企業・研究所との連携によってすでにしっかりと基盤ができている。研究計画に基づき、着実に実証研究を推進していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
JAXA(日本宇宙航空開発研究機構)の協力を得て、閉鎖環境適応訓練設備を使用した実験を計画していたが、先方の事情により、同設備を使用できるようになる整備に遅延が生じ、そのまま待っていたのでは、研究の進展に支障が生じる恐れが強くなった。やむを得ず、同等の実験環境が実現できる代替設備を確保して、実験の実施にこぎつけたが、開始時期が遅れたこともあり、この実験の本格的な実施は、次年度にずれ込むことになった。そのため、この実験の実施に必要となると予定していた経費は、本年度使用せずに、次年度に繰り越して、この実験実施に使用することにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記の事情により、本格的な進展が次年度にずれ込むことになった実験の実施に、繰り越す研究費を使用することにしている。実験は、4人の被験者からなるチームが3日間にわたって同一空間のもとでチーム活動を行い、そのメンバー間の相互作用のようす、チームプロセスのダイナミズムの様相、メンタルモデルの共有プロセス等について、逐一観察記録し、分析を行うものである。この実験の実施には、そうした測定システムを利用できる設備の使用料として600,000円と、被験者および実験補助者への謝金200,000円の支出を予定している。
|