研究課題/領域番号 |
26285148
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
筒井 雄二 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70286243)
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研究分担者 |
根ケ山 光一 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (00112003)
氏家 達夫 名古屋大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (00168684)
内山 登紀夫 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (00316910)
瀧野 揚三 大阪教育大学, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60206919)
楠見 孝 京都大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70195444)
高谷 理恵子 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (90322007)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子力災害 / 発達 / ストレス / 放射能汚染 |
研究実績の概要 |
本研究は東電による原子力災害が福島の母子に与えた心理的影響について,その状況とメカニズムを明らかにし,メカニズムに基づく支援の方法を開発することを目的に行った。 27年度は原子力災害下の福島で生活する母子を対象とした心理的影響に関する調査を26年度に続き実施した。研究1では1歳6ヶ月および3歳の幼児と彼らの母親を対象に福島県内で調査を行った。また,研究2では福島市内の小学生・幼稚園児と保護者を対象に,同様の調査を実施した。震災当初に比べ母子への心理的影響が減弱する傾向が見られたが,現状においても依然として他県よりも高い不安・ストレスレベルが続き,下げ止まりの様相を示した。事故前後に生まれた子どもと母親について、母親の原発・放射能への不安が母親のストレスを高めること、母親のストレスは母親としての自己効力感を低め、子どもに対する親行動にネガティブな影響を及ぼす。そして、子どもに対するネガティブな親行動が子どものエフォートフルコントロールを低めるというモデルが検証された。事故前後に生まれた子どもを持つ母親で、現在も子どもを放射能から守る行動を日常的にとることが、原発・放射能への不安、近所の安全知覚の低さ、回復までの期間を長く評価していることと有意に相関していた。母親の学歴とも相関した。その他の背景要因との相関は認められなかった。 また,危険から回避する親の行動と親の心理的要因について検討するため,福島県の県内外避難者16686世帯(県外避難35%)に調査紙を配付し,2862通の回答をもとに,12歳以下の子どもの有無による比較を行った。その結果,小さな子どもと同居する世帯は自主避難者群が多くを占め,放射線に対して強い懸念をもっており帰還に対して消極的であった。自主避難者群は抑うつ傾向も強かったが,しかしながら小さな子どもの存在はその傾向を軽減させていたことが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施計画で予定していた研究は,ほぼ交付申請書に記載されたとおりの内容で実施している。ただし,平成27年度中に実施した調査の一部は,平成27年11月から28年3月までデータをとり続けていたため,データの集計作業や詳細な分析作業にもう少し時間を要する見込みである。現在,その作業を行っている。一方,28年度に実施する研究についてはすでに着手しており,これらを総合して考えるならば,おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者らが行ってきた研究から,福島における原子力災害が福島で生活している人々に心理的にネガティブな影響を与え,特に母子を中心に,原発事故から5年が経過した今でも影響が続いている事実が明らかとなった。また,我々の研究では原子力災害による心理的影響がどのようなメカニズムによって引き起こされているのかについても調べており,28年度の研究においては,これらの研究成果に基づき,効果的な支援を開発したいと考えている。 支援の方法として我々はこれまで,レジリエンスモデルに基づいた介入的支援プログラムの開発を試みており,まずは,これらの方法の有効性について検証する必要がある。また,当初の研究計画には挙げていないが,チェルノブイリ原発事故から30年が経過したこのタイミングで,1)事故から30年後の心理的影響に関する状況を明らかにし,2)ウクライナがこれまで原子力災害の心理的影響をできる限り解消する対策の中心として据えてきた心理社会リハビリテーションセンターの役割と効果についても調べる。それらの分析を通して,原子力災害を経験した福島では長期的にはどのような心理的問題が起こり,その対処としてどのような方略が効果的なのかについて検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度中に実施した調査のうち,研究1は平成27年11月から平成28年3月まで,研究2は平成28年1月に実施したものである。これらの調査のデータ入力,解析作業は現在も行っている。このような理由により平成27年度使用額が,平成27年度中に完全には使用できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度の研究において集めた調査データについては,現在,入力・解析作業を行っている。そのために要する経費として,これらの予算の一部を使用する。また,【今後の研究の推進方策】でも述べたとおり,ウクライナにおけるチェルノブイリ原発事故の被災者を対象にした調査を追加して実施したいと考えており,そのための経費にも充当したい。
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