統合失調症のための認知機能改善療法(Cognitive Remediation Therapy: CRT)は「認知過程(注意、記憶、実行機能、社会的認知ないしメタ認知)の持続と般化をともなった改善を目指す行動的トレーニングに基づいた介入」と定義されるが、我が国ではCRTの効果研究はまだ十分にあるとはいえない。本研究では日本人統合失調症患者のためのCRTの効果を検証することである。この際、認知機能障害の改善可能性の検討のために、臨床症状、神経心理機能、日常生活機能の各側面の評価とともに、脳画像および脳由来神経栄養因子(BDNF)を指標として神経可塑性のレベルについても検討した。本研究では、展望記憶,注意,言語記憶および問題解決(認知的柔軟性)のトレーニングを,4~6名の患者と2名以上のスタッフで構成するグループ・アプローチで行うCRTを実施した。Twamleyら(2012)のCompensatory Cognitive Trainingをもとにした,日本人用のCRTを実施した。本CRTは,代償的方略の練習による習慣化によって,認知機能への負荷を減らしたり,認知機能障害を巧みにかわすことに焦点づけしている。介入頻度は週1回2時間で、全12回(約3ヶ月間)としている。効果の検討のため近赤外線分光法(NIRS)による脳機能測定およびBDNF測定を行い、データ解析を行なった。結果、認知機能とくに言語記憶と処理スピードの改善が示された。記憶課題中のヘモグロビン量の増大の変化をNIRSで計測したところ、再生時の介入後とフォロー時の評価において統制群よりも介入群で有意な上昇が確認できた。血清BDNFについて介入群では介入前から介入後にかけては維持傾向、血漿BDNFでは介入前から介入後にかけて数値の上昇が確認できた。
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