研究課題/領域番号 |
26285157
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
黒沢 幸子 目白大学, 人間学部, 特任教授 (00327107)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 学校プログラム / 解決志向アプローチ / ピアサポート / いじめ・不登校 / 困難学級 / 学級担任 / 学級目標 / 成功要因 |
研究実績の概要 |
本研究は、学校の諸問題状況の予防・解決に“解決志向”の発想が有用という英米の教育現場での知見を背景に、日本のよりよい学校・教室づくりに役に立つ実践方略を築き上げるため、“学校や児童生徒の力を肯定して活かす”日本の先行取り組みを集成させた 『日本版 解決志向の教室づくり実践マニュアル』の開発、その有用性の導入校での検証(プログラム評価)を目的とする。 平成26年度には、日本の学校現場が抱える諸問題(いじめ・不登校等)の改善に資する具体的方略の考案に役立つ知見を国内外の先行実践から得るため、以下のような研究活動を行った。 1.国外での実践知見の収集: 米国の「WOWW(教室でうまくいっていることに取り組む)」、英国の「いじめのサポートグループ」の開発者や実践者等の著書や論文を展望し、中心的な取り組みや効果の高い学校プログラムの共通要因を探った。 2.日本の成功事例の収集: 各地方の小・中学校の面識ある実践主導者を取りかかりとした多層的なスノーボールサンプリングを行い、児童生徒の力を活かした教室づくり等の成功事例経験を持つ計33名(①北海道;7名、②東北・関東;11名、③北陸・東海;3名、④関西・中国・四国;8名、⑤九州・沖縄;4名)に対し、半構造化面接を行い、実践資料も収集した。面接での質問項目は、国内外での事前調査を参考に、「児童生徒の力を活かした教室づくりについて」(a)【きっかけ】はじめの頃の教室の状況、(b)【試策】教室づくり実践経緯の試行錯誤や工夫、(c)【実践】教室づくりの取り組みの実際、(d)【アウトプット】どのような手応えを感じたのか、(e)【アウトカム】教室・子どもの変化、(f)【フィードバック】あらためて何が生じていたかの振り返り、に設定した。 33名全ての面接の音声データについて逐語録を作成し、質的分析による成功アプローチの抽出と成功要因の探求に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、小学校ならびに中学校の学級担任を対象に、日本を5つの地方に分け、各地方に3名ずつ計15名程度の面接調査を予定していた。しかし、日本のよりよい学校・教室づくりに役立つ実践的方略を築き上げるため、“学校や児童生徒の力を肯定して活かす”日本の先行実践を集成するという本研究の目的に向けては、学級担任だけでなく、養護教諭、管理職、特別支援教育担当教員等からの実践知見の収集も必要と考えられる。そこで、各地方を網羅する計33名を対象とした半構造化面接調査が実施され、当初の計画に比べ2倍あまりの数に上る多様なサンプルが得られている。面接調査によって収集された音声データや教室づくり実践の資料は、今後の分析に向けた逐語録化やデータ化がほぼすべて完了し、質的検討に着手している。 以上のことから、平成26年度は当初の研究計画に対して、より多くの実践事例を面接調査によって収集できたことが大きな成果であり、成功アプローチの抽出と成功要因の探求を質的に行ううえで、説明力が高く実践的応用力に富んだ有用な知見が得られることになる。これらから得られた知見から、平成27年度の『日本版 解決志向の教室づくり実践マニュアル』の開発をはじめとした研究が行われる。 したがって、平成26年度は、本研究をさらに充実させることを意図して行われた調査対象者の拡大に即した進展状況であり、研究目的の達成に向けておおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、前述した目的を達成するために、下記の4つの方策の研究を実施する。 1.成功アプローチの抽出と成功要因の探求: 平成26年度に行った半構造化面接の逐語録をもとに、よりよい教室づくりの取り組みのはじめから成果を感じるまでに生じる教員と児童生徒との相互作用について、また、実践を通じて得られた学校・教室・児童生徒・教員の肯定的な変化について、質的分析を継続して行う。これらを通し、教室づくりの成功事例に共通する要素とその展開に知見を得る。 2.『日本版 解決志向の教室づくり実践マニュアル』の作成: 国内外の実践例や1.で得られた結果等をもとに、上記『教室づくり実践マニュアル』を作成する。マニュアルには、取り組みのねらいや前提となる発想や方針、準備段階で必要な事柄や心構え、実践のベーシックな手順(ステップによる整理等)、時間配分、ワンポイント・アドバイス、困ったときの対処策・解決案、日本での成功事例等を記載して盛り込む。順調な取り組みの導入や実践を継続させるポイントの整理も行う。 3.フィデリティ(fidelity;実践忠実度)項目の作成: 上記『教室づくり実践マニュアル』の実施において、プログラムのプロセスや維持に対して重要不可欠な要因、具体的な人的・物理的資源や手順等について、先行報告、平成26年度調査研究および上記1.2.で得られた成果等をもとにしてリストアップし、フィデリティ項目の策定に着手する。 4.アウトカムを測定する評価尺度の決定: 平成26年度の調査研究、ならびに上記1.2.3.の成果等を踏まえ、平成28年度以降に実施するプログラム評価研究のアウトカム(学校・教室・児童生徒・教員の肯定的な変化)を測定するのに適切な評価尺度を必要数選出・作成することに着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、当初の研究計画以上に多くの調査参加協力が得られ、充実したサンプル数・バリエーションのある実践事例の収集が行われた。収集されたサンプル数が多かった一方で、面接調査会場については、調査参加者やその関係者の協力により、大学・学校の面接室・会議室等を無償で借用できる状況が多く生じた。そのため、当初の計画よりも結果的に面接調査のための会場費が廉価となったことが、その理由として挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、収集されたデータを質的に分析・検討し、マニュアル作りを行うことを目的としている。その際、既に面接調査を行った調査参加者やその関係者等に対して、作成した資料の確認・検討や参考資料の追加提示等を依頼する場合がある。平成26年度に収集されたサンプル数の増大によって、その依頼件数が当初の計画よりも多くなることが見込まれるため、その郵送費等として使用する計画である。
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